日ごろ、筆者が外国為替に関わる講演をしたりレポートを配信したりしていますと、聴講者や読者の方々から「豪ドルについての話をして欲しい」とのオーダーが少なからず寄せられてきます。確かに、豪ドルは日本の個人投資家に人気があり、豪ドル/円の取引量がドル/円のそれに次ぐものとなることも少なくありません。
ただ、グローバル市場における通貨ペア別の取引シェアを見ると、まずユーロ/ドルが全体の約28%(2010年の1日平均)と圧倒的で、次にドル/円が約14%、あとはいずれも10%未満であり、豪/ドル円のシェアは極わずかなものしかありません。つまり、グローバル市場における主役というのは言うまでもなくドル、ユーロ、円の3通貨であり、豪ドルを含むその他の通貨はあくまで脇役に過ぎないということになります。
それでも、日本の個人投資家はことのほか豪ドルがお好み...。
それは一つに、豪州が極めて豊かな天然資源や農産物、畜産物に恵まれていることに対する、資源小国ニッポンとしてのある種の「憧れ」のようなものも関係しているのではないかと思われます。
もちろん、近年目覚ましい発展を遂げている世界各地の新興国では、各種の資源需要が時を経るほどに高まっており、長い目で見て資源の豊かな豪州という国の価値、ならびに豪ドルという通貨の価値は高まり続けるものと見られます。
よって、資源に乏しいニッポンの通貨=円の一部をいまのうちから豪ドルに換えておくという考え方は大筋間違ってはいないと言っていいでしょう。少なくとも、豪ドル建ての外貨預金や外債のようにレバレッジが利かない世界であれば、一種の逆張り感覚で豪ドル/円が値下がりしたところを丹念に拾っておくというのも一手でしょう。
ただ、一定レベル以上のレバレッジを利かせてFXで豪ドル/円の取引を行う際においては、やはり相当の慎重さが求められることも事実です。それは、一口に言うならば豪ドルという通貨が非常に「ウブ(純粋)」な通貨であり、世界全体の経済動向に対して非常に敏感な通貨であると言えるからです。
たとえば、昨今のように欧州の債務問題が極度に緊張感を高め、同時に米国の景気後退懸念が要警戒レベルに達しているような状況下にあって、豪ドルという通貨はそうしたムードを非常に敏感に感じ取り、ときに強い売り圧力に押される展開となるケースが少なからず見受けられます。
まして、もともとグローバル市場における取引シェアが低い=取引量が限られることから、その値動きはドルやユーロなどよりも大きくなりがちです。実際、今年の7月初旬まで88.00円近くまでの戻りを見ていた豪ドル/円は、その大よそ1か月後の8月9日には76円台半ばまでの大幅な値下がりを見ることとなりました。
このようなことから、少なくともドル/円と同じ感覚で(=レバレッジを利かせて)豪ドル/円の取引を行っていると、ときに思わぬ大きな損失を背負い込むことにもなりかねないことがわかります。
ある意味において、豪ドルの値動きは「世界全体の景気のバロメーター」と言えるわけですが、逆に言えば「必ずしも豪州固有の材料によってのみ値動きするわけではない」とも言え、その点も十分に理解しておく必要があると言えます。
田嶋 智太郎
経済アナリスト・株式会社アルフィナンツ 代表取締役