前回、話題として取り上げた米雇用統計の最新データ(8月分)が2011年9月5日に発表されました。注目の「非農業部門雇用者数」は前月比で増減ゼロ。事前に市場が予想していた6.8万人増(コンセンサス)を大きく下回ったことも驚きでしたが、同時に7月分と6月分のデータを下方に修正したこともネガティブなサプライズとなりました。

一体なぜ、これほどまでに雇用情勢の改善が進まないのでしょうか? それは、米国の企業経営者の立場になって考えれば大方想像がつくでしょう。いま、ここでまとまった雇用を受け入れた場合、それは果たして経営にプラスとなるだろうか? コスト増を上回る収益の伸びに期待できるだろうか? 心配で心配で、動けない...というのが正直なところでしょう。なにしろ、経営を取り巻く国内外の景気の先行きがあまりにも不透明、というよりも足下ではジワジワと悪化しかねない状況にあるのですから。

同じような不安心理は、米国における製造業の景況感にも如実に表れています。例えば、9月1日に発表された8月のISM製造業景況指数は50.6(%)と、辛うじて景気拡大・後退の分岐点である50を上回ったものの、2009年7月以来の低水準に落ち込む結果となりました。この指数は、全米約370社の購買・供給管理の責任者にアンケートを送って集計しており、その回答は多分に全体の経営判断を反映しています。「新規受注・生産・雇用・入荷遅延・在庫」の5項目あるなかで、8月は「雇用」が2009年11月以来の低水準にまで低下しており、この時点で4日後に発表されることとなった米雇用統計の冴えない内容もある程度は予測できたということになるでしょう。

 さらに遡ると、8月18日には8月のフィラデルフィア連銀製造業景況指数が発表されており、結果はマイナス30.7と2009年3月以来の低水準でした、この指標は、アメリカに12ある地区連邦銀行(地区連銀)の一つ、フィラデルフィア連銀が管轄する3州(ペンシルバニア州、ニュージャージー州、デラウエア州)の製造業の景況感や経済活動の現状などを指数化したもので、0を分岐点にプラスだと景気の先行きは明るい、マイナスだと景気減速懸念が高まっていると判断されます。フィラデルフィア連銀管轄の3州はニューヨーク州に近く、他の連銀が管轄する州よりも比較的早いタイミングで域内の雇用情勢に変化が生じると見られており、雇用関連の先行指標としても市場は注目しています。

このように、目下の米雇用情勢は非常に厳しい状況にあると言え、それは当然のことながら今後の消費動向にも大きく影響するものと見られます。そんななか、9月7日(日本時間27:00)に米地区連銀経済報告(ベージュブック)が発表されます。このベージュブックは、文字通り全米12の地区連銀による経済概況報告のことで、発表時期は年8回開催される連邦公開市場委員会(FOMC)の2週間前の水曜日と決まっています。つまり、ベージュブックは2週間後に開かれるFOMCの議論のたたき台となるもので、今後の金融政策の行方を左右する可能性が高いことから市場の関心度は大です。

 一部で米国の景気後退局面(リセッション)入りの可能性が囁かれるなか、9月のFOMCがいつにも増して注目度が高いことは周知の通りです。FOMCの定例会合というのは年初と年央の会期に限って2日間の開催ですが、他の会合は通常1日だけ。にもかかわらず、この9月のFOMCは2日間に渡って開かれることとなっており、それだけでも9月会合の重要度が十分にうかがい知れるというものです。

 その焦点が「量的金融緩和策第3弾(QE3)実施の決定が下されるか否か」にあることは言うまでもなく、すでに国内外の論客の間ではその是非を巡って様々な議論が戦わされていますね。広く景気対策、なかでも金融政策の選択肢が狭められてゆくなか、いまやQE3は「伝家の宝刀」のような存在になっていると言えます。それだけに、おいそれとは抜くに抜けず、あえて温存(?)する可能性もあります。
 今回のFOMCの決定は、今後の外国為替相場の行方を大きく左右するものとなる可能性が高いため、私たち投資家にとっても絶対に目が離せないものとなりそうです。

田嶋 智太郎

経済アナリスト・株式会社アルフィナンツ 代表取締役