●米国のイールド・ギャップ(長短金利差)の縮小が加速している。今週金曜日の雇用統計では、09年以来の強い時給上昇が予想されており、短期金利の上昇で、ギャップはさらに縮小しそう。
●イールド・ギャップの縮小は銀行にマイナスと取られがちだが、短期金利の上昇は、多くの貸出が短期金利に連動するため、プラスに作用する面も。
●景気後退懸念から、足元では米銀株の下落幅も大きい。しかし、短期金利上昇の恩恵を受けること、規制緩和が始まったこと、株主還元が過去最大を更新していることなどは米銀の強み。貿易問題などの不透明感が高まった場合、銀行は米国内では選好したいセクターの一つである。
米国のイールド・ギャップ(長短金利差)はますます縮小
米国のイールド・ギャップは、ここのところ、縮小が一段と加速している(図表1-1, 1-2)。足元では、10年国債と2年国債の利回り差は、2007年以来となる0.3%まで低下している。
また、今週金曜日の6月の雇用統計では、失業率、雇用者数とも安定的な水準が予想されている。さらに、平均時給上昇率は、前年同期比2.8%を超え、09年以来の伸びが予想されている。雇用統計の結果が強い内容となれば、短期金利は一層上昇するだろう。一方、貿易問題や新興国懸念などから長期金利は上昇しにくくなっており、イールド・ギャップの縮小は、更に加速すると思われる。この勢いが続けば、今年末にも逆イールドが発生する可能性がある。
銀行セクターには逆風だけではない
イールド・ギャップの縮小は、銀行業務の中で、長短の金利差で儲けるという運用業務に対してはマイナスである。例えば、預金を集めて、中長期の国債を買ったり、固定金利の貸出を行うことなどがこれに当たる。
だが、イールド・ギャップの縮小は銀行の収益にマイナスばかりではない。短期金利が上昇すれば、企業向け貸出の大半を占める短期連動貸出の収益を押し上げる。結果として、銀行の一株当たり利益は、短期金利と概ね正の相関関係がみられる (図表2)。
もちろん、銀行業務は景気に左右されやすいの。景気が後退すれば、貸出が落ち込み、収益は減少しやすい。しかし、景気が後退するのは、通常、逆イールドが発生してから1年~1年半程度経ったのちであり、まだ相当時間がある(図表3)。
今回は更に米銀株にはプラス面が...
足元ではさえない銀行株だが、米中貿易問題が深刻化した場合でも、実務的には影響が少ない点は強みである。前述の通り、短期金利上昇で収益メリットも受ける。
更にいくつか、他の業界にはみられないプラス要因もある。
まず、最近政府が銀行規制緩和の方向に動き出したことが挙げられる。具体的には、今年に入り、厳格な規制を受ける大手行の範囲を狭めたり、自己勘定取引などを禁じるボルカー・ルールの見直しを始めた。
また、先月発表になったFRBの「包括資本テスト(CCAR)」では、ゴールドマン・サックス(GS)やモルガン・スタンレー(MS)が株主還元を据え置いたものの、それ以外の4大銀行はそろって前年よりも増やした(図表4-1、4-2)。今後12か月の4大銀行の合計還元額は1,100億ドル(12兆円)と、過去最大となった。それだけ還元しても、各行の自己資本比率は上昇傾向にあることから、今後もまだ還元強化の余地があるだろう。
これらの点を考えると、銀行セクターは、相対的に貿易問題が悪化した場合等にも耐性が高いと考えられる。米国株投資のポートフォリオ構成の中では、銀行は優先したいセクターの一つである。