●日本時間10日昼、韓国の仮想通貨交換業者Coinrailでハッキングが確認、PundiX等マイナーな仮想通貨が盗難されたと報じられた。ビットコインは11日現在前日比12%下落している。
●今回の事件発生前から仮想通貨市場は軟調だった。「51%攻撃」と呼ばれるアルトコインへの攻撃が主な要因。ブロックチェーン自体の不正操作であるという点がこれまでの単なる盗難と異なる。
●これらのハッキングの被害はマイナー通貨に集中していることから、被害を受けていないBitcoinの価格下落は一時的なものに留まると考えるのが自然だろう。今後は、ハッキングのリスクが相対的に低い、Bitcoin等の主要通貨に取引が集中化する可能性が高いと思われる。
仮想通貨大幅下落の背景
日本時間6月10日正午過ぎ、韓国の仮想通貨交換業者Coinrailが、Pundi X (NPXS) というマイナーな仮想通貨等のハッキングに遭ったとツイッターで発表した。被害額は40億円相当とされる。これを受け、Bitcoin等の仮想通貨は一日で12%程度下落した(図表1)。これは、3月にグーグルやフェイスブック、ツイッター等が仮想通貨関連の広告を禁止して以来の大幅下落である。
Pundi Xは、17年11月に、同名のPundi社がICOで発行したばかりのマイナー通貨である。市場規模は不明だが、ICO時には400万ドル超を集め、今年1月には、実店舗での利用実験を発表していた。2月には、価格が上昇しすぎたことを理由に分割案も提示していたがうまくいかずに実施を止めた。
CoinrailがPundiXの取扱いを始めたのはまだ4月からと開始から間もなかった。Coinrailは、同社の全コインの入出金を凍結、流出した分を除き、すべてのコインをコールドウォレットに安全に移動したと発表した。流出した額についても、各取引所との協力で、3分の2は凍結・回収作業中とのことである。
Coinrailは、韓国内では取引量で上位の交換業者だが、世界では90位程度に留まっている。同社のセールス・ポイントの一つが、取扱いコインの多さで、日本の交換業者では3~10通貨程度が一般的であるのに対し、約40種類のコインを取り扱っているとみられる。
最近軟調だった理由の一つには51%攻撃も
今回の事件が発生する少し前から仮想通貨市場は軟調だった。「51%攻撃」と呼ばれる、アルトコインへの攻撃が主な要因である。この攻撃は、期待されているブロックチェーン自体への操作という点がこれまでのコインの盗難とは異なるものとして警戒されている。
これまで報じられている51%攻撃は、「Monacoin」(全通貨中66位- Coinmarketcapによる)、「Verge」(同34位)、「Bitcoin Gold」(同29位)「ZenCash」(同138位)などのマイナー通貨に対するものである。
51%攻撃とは、ブロックチェーンで取引の正しさを判断するプロセスで、取引の過半数を握るプレーヤーが、事実と異なる取引記録を作成してしまうという攻撃である。従って、市場のプレーヤーが集中している通貨ほど攻撃されやすい。交換業者の市場シェアで見ても、51%攻撃に遭った市場は集中している一方、Bitcoinは相対的に分散している(図表2-1,2-2)。これまでのところ、Bitcoinではなく、マイナーなアルトコインから被害が報告されているのはそのためである。
今後の見通し:今回のハッキングは従来型のハッキング。主要通貨への取引集中の可能性
今回のCoinrailのハッキングは、ブロックチェーンの不正操作ではなく、従来型の盗難の模様である。詳細は不明だが、現時点ではウォレットの管理等、交換業者のセキュリティ対策上の問題が大きそうだ。多数のコインを取り扱っていれば、その分管理態勢の充実が課題になるが、報道によれば、Coinrailは、近時取扱うコインを増やしていた模様である。もし、今回の事件が、個別の交換業者の問題だとすると、直接被害を受けていないBitcoin等の価格暴落は一時的なものに留まる可能性が高い。
このような交換業者のセキュリティ態勢の問題に加え、先に挙げた51%攻撃も続いているとみられることから、マイナー通貨のリスクは払しょくできない。Bitcoinの仮想通貨市場におけるシェアは、今年に入り低下気味だった。しかし今後は、セキュリティの観点から、Bitcoinなどの主要通貨に取引が再び集中していく可能性が高いと考えられる。
【最近の仮想通貨市場の動きについては、マネックス仮想通貨研究所ウェブサイトをご参照】