● 米中の貿易問題に関し、ムニューシン米財務長官と劉鶴経済政策担当副首相が対話、不均衡是正に向けた話し合いが本格化しつつある。

● これらの高官の対話から、中米がお互い問答無用の高関税を課すという貿易戦争のリスクは後退しているとみられる。

● 米国の対中貿易赤字の削減目標は高く、交渉は容易ではないだろう。しかし、相対的に中国が譲歩しやすい分野の一つが、既に解放を打ち出している金融分野。米金融グループや、交渉の行方次第では日本の金融グループにとってもプラスとなりうる。

米中の貿易の現状と高関税の影響

中国と米国で、貿易不均衡是正に向けた話し合いが本格化している。26日には、ムニューシン米財務長官と劉鶴経済政策担当副首相が電話と書簡でやりとりを行ったと報じられている。

米国の2017年通年の貿易赤字額は前年比12.1%増の5,660億ドルと、08年以来の水準まで上昇している。なかでも、対中貿易赤字額は3,752億ドルで前年から8.1%の増加となった。

これに対し、ナバロ米国家通商会議(NTC)委員長は、米国の対中貿易赤字を今年1,000億ドル(約10兆5500億円)減らす方針だと伝えられている。前年の赤字額と比較すると、26%もの縮小を目指すことになる。

報道によれば、高関税の対象品目は、知的財産権の侵害等に係る100以上に上る見通しである。既に輸入制限が発動している鉄鋼・アルミニウム製品だけでは、対米赤字額のごく一部にしか該当しないことから、図表1にあるような、電気機器や家具・玩具等の上位品目が高関税の対象に含まれる可能性がある。

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米国の関税が、発動済みの鉄鋼・アルミニウムだけに限定されれば中国経済への影響は限定的だったと思われる。しかし、仮に、それ以外の100品目に拡大され、米国向けの輸出が1,000億ドル失われた場合、中国の11兆ドルのGDPに対する影響は1%程度と無視できない。しかも、知的財産権の侵害を理由に対象が拡大する可能性もある。今のところ、話し合いがもたれていることから、対抗措置で対立構造を強めるよりは、中国側が何らかの譲歩をしつつ落としどころを探る可能性が高まっている。

今後の交渉次第で、金融業界や、一部のハイテク分野が恩恵を受ける可能性

ではどのような分野に影響が出るだろうか。

米国は、中国に対し、車両、半導体などの輸入拡大や、金融分野の開放、知的財産権保護に向けての対応などを求めていると報じられている。しかし、中国の国内事情として、ガソリン車の圧縮や、独自のIT技術の拡大を目指している最中である。中国としては、できるだけ、国内産業と競合しない、電気自動車等の自国の技術では不足している分野が最大の候補であろう。

また、中国も昨年後半から、徐々に市場開放に向けて動き始めている。政府が進める人民元の国際化のためにもこれは必要な施策である。

特に、金融分野については、昨年11月に、外資の参入規制を緩和すると発表していることから、中国としても米国の開放要求を比較的受け入れやすいと考えられる。

11月の発表では、外資系金融機関に対し、現在認められていない過半数の出資を認めることとしている。具体的には、証券会社は2020年から、生命保険は22年から全額出資の子会社を設立したり、中国資本の金融機関を外資系企業が買収することが可能になる。現在、中国の証券業界には、シティグループ、UBS、ドイツ銀行、ゴールドマンサックス、モルガンスタンレー、JPモルガンなど、主要グループが合弁会社を設立し、相応数十億円~200億円程度の収益を上げている。

一方、生命保険会社の中国進出は、これまで多くの外資系金融機関が挫折しており、現在参入している企業はごく限定的である。しかし、中国は、現在「健康中国2030」という計画を策定し、医療・衛生関連分野の拡充や、商業医療保険の割合の引き上げなどを目指している。中長期的には市場の拡大が期待できる。

もし、米国との話し合いの中でこれらの金融分野の市場開放が前倒しとなれば、米国の金融機関にとって投資の好機となるだろう。更に、米国に対してだけでなく、広く市場開放を前倒しにする動きが出れば、日本の金融機関にとっても機会を与えることになるだろう。