● 先週ECBは政策維持を決定。それでも、欧州の消費者心理は良好で成長率が高いことなどから、資産購入終了の前倒しや利上げへの期待は高く、ユーロ高が続いている。
● しかし、金融システムの回復は鈍い。国際資本規制最終化の負担は欧州の銀行に重く、ギリシャでは不良債権がむしろ増加しており、改善基調のイタリアでも問題は燻っている。
● 早期の金利上昇は、脆弱国の不良債権問題悪化を招きかねない。金融システムの完全復調には、あと半年程度は必要。それまで金融政策のタカ派加速は期待できず、ややスピード違反気味だったユーロ高にも限界が見えてくるだろう。
欧州の経済動向:インフレ上昇、センチメントは過去最高
先週ECBは金融政策の維持を発表したが、昨日は、ECB幹部発言でユーロ相場が揺れた。理事会メンバーのノボトニー・オーストリア中央銀行総裁は、9月に予定されているECBの資産買入れ終了時期を前倒しするべきとの見方を示唆した。一方、プラート専務理事は、緩和的金融政策を維持する必要があると改めてコメントした。
これに伴いユーロ市場は大きく変動したが、特に流れとしては、資産買入れの終了の前倒しと、これに続いてマイナス金利解除の明確化に対する期待を高めている。
確かに、下記の図表にある通り、欧州の消費者信頼感指数は過去最高まで改善している。同様にGDPも回復しており、これと完全に連動する形で株価も上昇している(図表1-1、1-2)。
一方、インフレ率の上昇は足元でやや鈍化している(図表2-1、2-2)。特に、昨年前半まで急速に回復してきたイタリアでは急速に伸びが鈍化している。
課題の金融システムの現状と見通し
欧州には、これ以外にも、大きな課題が残されている。金融システムの健全性の問題である。
欧州の金融システムは、1年前と比較すれば相当回復している。しかしまだ盤石とはいえない。不良債権処理を急いだことなどから、資本比率は日米と比較すると低い。さらに、昨年12月に決まった国際資本規制の改定で、欧州の銀行は一部で増資が必要になるかもしれないなど、最も大きな影響を受けると思われる。
また不良債権問題も燻る。イタリアの不良債権比率は、一時期よりは低下しているものの、水準としてはまだ欧州平均と比較してはるかに高い。ギリシャにいたっては、貸出が減少していることから、不良債権比率はむしろ上昇している(図表3)。
イタリアでは、3月4日に総選挙も予定されている。極右の「5つ星運動」も、得票のため、EU離脱など過激な政策は今のところ封印しているものの、政権獲得後にポピュリズム的な反EU路線に走る可能性もある。銀行の不良債権問題が燻り、貸出の低迷が景気回復の阻害要因となれば、反EUの国民感情をあおる可能性がある。
一方ギリシャは、今年8月にIMFなどによる「第三次金融支援」の期限を迎える。それまでに経済を立て直したいところだが、依然ゼロ成長が続く(図表4)。
ギリシャの不動産価格は最悪期から持ち直している。これが、ゼロ成長でも不良債権が増えない背景のひとつだ。この不動産価格の持ち直しは、マイナス金利の恩恵であり、金利が上昇したら不動産価格は再び下落に転じ、不良債権問題からの脱出が遠のく可能性がある。
ECBの金融政策正常化はいつになるのか?
そもそもECBの金融緩和の背景には、欧州財政危機時に痛んだ弱小国の救済がある。従って、強者であるドイツや、欧州全体の平均値だけではなく、脆弱国の健全化度合いにも注目する必要がある。
ギリシャがゼロ成長から抜け出し、イタリアともども銀行システムが健全化するには、もうしばらく時間がかかると思われる。だとすると、ECBの資産買入れは、イタリアの総選挙も終了し、ギリシャの第三次金融支援の期限を通過する9月頃という線がやはり濃厚だろう。
これに対し、現在のユーロの水準は、国債利回りに対してかなり高水準になっている(図表5)。しかし、上述のような金融システムの状況を考えると、これはやや勇み足とも見える。今後のユーロの上昇ピッチには限界がみえてくる可能性もある。