● 米国の大手銀行の決算が出揃った。税制改革により3兆円に上る繰延税金関連の一時費用やボラティリティの低下でトレーディングが低調。与信費用も3Qは個人向け、4Qは大口先が増加した。しかしこれらは総じて一時要因で、本業収益は手数料や資金利益に支えられ順調だった。

● 結果、継続事業ベースの一株利益は、訴訟に揺れるウェルズファーゴが横ばいとなったほかは、5~20%上昇と比較的好調。今期以降も、利上げと好景気に支えられ、貸出・利ざやの拡大、M&A、富裕層取引等が増益をけん引しよう。

● BISの資本規制も決着し、米銀は資本比率も国際比較で高い。増益基調と自社株買いで、EPSは拡大傾向で、もう一段の株価押し上げが期待されよう。株価の上昇ピッチが早いため従来よりはやや控えめながら、米銀には強気のスタンスを維持。

米銀大手行2017年度通期決算

米大手6行(バンク・オブ・アメリカ、シティグループ、JPモルガン・チェース、ウェルズ・ファーゴ、ゴールド・マンサックス、モルガン・スタンレー)の2017年度通期決算が出揃った。訴訟費用が積み増されたウェルズ・ファーゴを除き、営業利益は、前年同期比増益となった(図表1、2)。

20180118_1.gif

収益の内訳をみると、景気拡大・金利上昇期の典型的なパターンとなっている。資金利益は、貸出ボリュームの増加と利ざやの復調で、資金利益が増加した(図表3,4)。モルガンスタンレーの富裕層向け取引や、ゴールドマンサックスのM&A仲介や引き受け業務などをはじめとする投資銀行業務も好調だった。さらに、好調の時に膨らみがちな経費も、何とか微増に留めるなど、総じて抑制された(図表5- ウェルズ・ファーゴの増加は訴訟関連)。

20180118_2.gif
20180118_3.gif

今期以降も、利上げと企業の投資意欲から、貸出のボリュームの拡大が期待されるとともに、利ざやの改善も見込まれる。順調な景気に支えられ、M&A、富裕層取引等が増益をけん引することがみこまれる。

一方、ネガティブな点は主に2つ。1点目は、4Qにある程度巻き返したものの、ボラティリティの低下や金利上昇(債券価格は下落)で、GS、JPなどでトレーディング収益がぱっとしなかった(図表6)。ただし、トレーディング収益は環境次第で大きくブレるので、今期に復調する可能性は十分ある。

20180118_4.gif

2点目は、与信費用の増加(図表7)。ウェルズファーゴを除き、増加に転じた。3Qに、ハリケーンの影響に対する予防的な引き当てを計上したことに加え、4Qには大口先の費用がかさんだ。足元でクレジットカードローンの延滞が急増しており、自動車ローンの延滞も徐々に増加していることから、若干注意が必要とみられる(図表8)。

20180118_5.gif
20180118_6.gif

昨年末の税制改革の影響は米銀にも大きなプラスとなる。例えばJPモルガンは、35%程度の過年度の実効税率が20%前後まで低下すると予想される。これは単純計算では、同じ収益状況でも、税引き後利益は2割以上増加するということだ。

他の米銀についても、国内業務については同様の効果は見込めるが、シティグループのように海外収益比率の高いところよりは、ウェルズファーゴやJPモルガンなどの国内比率が高い金融機関の方が税制メリットが大きいとみられる。

昨年12月、BISでバーゼル3の資本規制厳格化の最終案が合意され、十数年ぶりに資本規制厳格化の流れが終結した。米銀は、日欧の金融機関に比べて資本比率が高いため、今回の規制厳格化でも相対的な悪影響は少ない。むしろ、規制の確定を受け、自社株買いを積み増すこともできるだろう。

好調な景気による投資銀行業務の拡大や、利上げの継続による運用利回りの増加に、国際資本規制厳格化の打ち止め感に伴う自社株買いが加われば、一株利益(EPS)は、現在の予想を上振れる可能性もある。米銀株価はEPSに比較的素直に連動していることから、株価は引き続き堅調に推移すると考える(図表9)。株価の上昇ピッチが早いため、従来比やや控えめながら、米銀には強気のスタンスを維持する。

20180118_7.gif