● 米国で銀行・証券業務分離法(「グラス=スティーガル法」)の復活が報じられており、足元の米金融機関株の重石となっている ● しかし、現在、銀・証どちらか一方の業務の比率が大きく、業務分離の影響が限定的な金融機関の株式までもマイナスの影響を受けている ● 並行して規制緩和法案も提出されており、米金利も上昇傾向。6月のFOMCに向け、米金融機関には再び上昇に向かう可能性がある
今月に入り、トランプ米大統領など政府関係者が相次いで、銀行業務と証券業務を分離するという「グラス=スティーガル法」を復活させる意向を示した。
この法律は、大恐慌下の1930年代に成立し、1999年に廃止された古い法律である。現在、米国ではこれらの業務を一体で運営している大手金融機関が多い。こうした報道の不透明感で、足元の銀行株価の動きは金利上昇の割には鈍くなっている(図表1)。
しかし以下の理由から、グラス=スティーガル法の復活は実現には時間がかかるとみられる上、以下のようなポジティブ材料もあることから、米金融機関には引き続き上値余地があると考えている。
金融規制緩和案も並行して進められている 4月半ばには、共和党が米国下院議会に「ドッド=フランク金融規制法」の緩和案を提出した(主なポイントを図表2に記載)。これらはまだ修正される可能性が高いが、銀行の貸出を促進するもので、景気拡大の支援材料となる。若干時間がかかったとしても、中長期的には緩和の方向にあると考えられる。
なお、自己資金での有価証券売買などを禁止する「ボルカールール」については、緩和すれば銀行の過度なリスクテイクに繋がるという批判から、当面本格的な議論は期待しにくいだろう。しかし、業界からの要望も強くなっていることから、マーケットメイク(値付け)の機能など一部が解禁される可能性もあるだろう。
分離の影響度が比較的小さい銀行もある グラス=スティーガル法が復活した場合、金融グループは、証券業務か商業銀行業務(預金や貸出)に特化しなければならない。現在、両方を行っているシティグループ、バンク・オブ・アメリカ、JPモルガンなどでは、商業銀行業務が利益の半分以上を占めるものの、証券業務も3割以上を占める。これらの銀行では、証券業務を分離すれば、当然収益は低下する。
しかし、例えばゴールドマン・サックスやモルガン・スタンレーなどでは、利益の殆どが証券関連業務で、商業銀行の利益はごく小さい(図表3,4)。たとえ商業銀行業務を売却しても収益への影響は限定的である。にも関わらず、株価は相対的に低い状態が続いている(図表5, 6)。
また、仮に商業銀行主体の地銀やウェルズ・ファーゴなどがごく一部で行っている証券業務をスピンオフしても、商業銀行業務の方が。収益のブレが激しい証券業務よりも収益の質の評価が高いことを考えれば、株式の評価は下がらない可能性もある。
更に、それぞれの事業をスピンオフするときには相応の対価を得る。これらも考慮すれば、全体として株価は懸念されるほどの影響を受けない可能性もある。
6月のFOMCに向け、金利は再び上昇へ 米国の景気は依然として強く、金利は上昇方向にある。6月15日のFOMCで利上げが決定すれば、金利の見通しについて強気の見方が一層高まるだろう。足元では、こうした規制関連の不透明要因で金融機関株の上値は重くなっているものの、6月にかけて再び上昇に向かう可能性が高いと考えている。