● 米自動車販売は、悪天候要因のあった3月からはやや持ち直すとみられている。しかし、トレンドとしては減速が続くだろう。背景にある自動車ローン問題は依然悪化傾向にある。

● メーカーの販売促進策等で"ディープ・サブプライム層"向け貸出が増加、延滞発生は過去最高水準。銀行は厳格化に方針転換しており、販促抑制と相まって「合成の誤謬」のリスク。

● 米自動車ローンは住宅ローンに比べ市場がごく小さく、証券化商品も少ないため、かつてのように影響が世界に拡散する可能性は低い。しかし、中小金融機関の損失拡大や個人消費等への影響は不可避。米国の金利上昇を阻む要因として注視する必要がある。

米国の自動車販売と自動車ローンの現状

米国の5月2日に、4月の自動車販売台数が発表される。3月は、悪天候で市場予想を大きく下回ったが (図表1)、今回は若干の回復(3月16.53→4月17.1)が見込まれている。

しかし、一時的な揺り戻しがあったとしても、自動車販売は総じて苦戦が強いられ、米国の個人消費の頭を抑えそうだ。図表2の通り、自動車販売は自動車ローンと密接に結びついている。16年末時点で、新車の85.2%、中古車の53.5%が借り入れで購入されているためだ。(因みに日本では、それぞれ新車で2割、中古車で3~4割程度と推定される。)ところが、この市場は以下の通り、問題が一層深刻化している。

米自動車ローンの問題点

米国の自動車ローン残高は16年末で1.16兆ドル(120兆円)に上る(図表3)。日本については同様の統計がないが、これよりはるかに小さく、恐らく一桁違う規模とみられる。

これだけの残高拡大を支えてきたのは、自動車メーカーがディーラーに支払う "インセンティブ"(販売奨励金)である。自動車市場の競争激化でインセンティブの引き上げが続いた。昨年9月には、過去最高の1台当たり40万円にも上ったとされる。

しかし、このインセンティブ目当ての過度な営業で、いわゆる"サブプライム層"(定義はまちまちだが、信用力評価スコアが概ね500~660以下の個人)などのリスクの高い個人に対するローンが急拡大した(図表4)。特に最近では、信用評価スコアが300-500という"ディープ・サブプライム層"向け貸出の増加が目立っており、昨年1年間で残高は14.57%も増加した(エクスペリアン社のデータ)。

膨張した自動車ローンの弊害は最近になって顕在化している。雇用や賃金の改善で、クレジットカードなど他の個人ローンでは延滞の発生が沈静化しているのに、自動車ローンについては急速に増加しており、リーマンショック時に記録した過去最高水準に近づいている(図表5)。今後も、ディープ・サブプライム層向け貸出の増加などから、当面延滞の発生増加は避けられないとみられる。

こうした状況に対応するべく銀行も動き出している。直近17年3月末の銀行の貸出動向調査によると、銀行の貸出基準は「厳格化」の度合いが過去最高を更新している。銀行の貸出厳格化とメーカーのインセンティブ抑制の動きで、自動車ローンの資金需要は今年に入って一気に減退している (図表6)。

今後の見通し:リスクが世界に拡散することはないが、米国の景気動向への影響大

現在、自動車ローン市場のメインプレイヤーは図表7の通りである。自動車メーカー系と、銀行系が上位を占める。新車ローンはこうした大手に集中しているが、中古車ローンではトップ20社は4割程度を占めるに留まり、ディーラー系金融などの小規模業者が乱立している。

これらの自動車ローン残高のうち、約2割がサブプライム層向けとなっている。特に、金融会社とディーラー系金融では貸出の約7割がサブプライム層向けとなっており深刻である。一方、銀行や自動車メーカー系では、サブプライム層向けは13%程度と低い。

今後の懸念材料の第一は、中堅中小の金融機関の引き当ての増加と新規貸出の伸び悩みである。それでなくても金利上昇が個人ローン全体の新規実行額にマイナス影響与えつつあるが、自動車ローンについては、それに加えて銀行の審査厳格化がマイナスに作用する。メーカーの販売インセンティブも、日産など各社で抑制の動きが出始めている。

こうした抑制策は、それぞれのプレーヤーの損失回避のためには正しい動きである。しかし、全社が一斉に同じ動きに走った場合、市場を冷やし過ぎ、むしろ損失を拡大しうるという「合成の誤謬」のリスクが懸念される。

第二に、国内個人消費への影響も懸念される。自動車販売は、米国の耐久消費財の4割弱を占め、他の個人消費項目よりも変動が激しいため、個人消費の大きな変動要因となる。自動車販売の更なる落ち込みは、個人消費の落ち込みに直結する。

半面、2007年以降の住宅ローンのサブプライム問題のように、リスクが世界に拡散することは極めて考えにくい。サブプライム住宅ローン残高はピークで120兆円程度あったのに対し、サブプライム・自動車ローンは、25兆円程度と5分の1程度しかない。証券化されているのはさらにその1割程度の4兆円強である。しかも、期間が5~6年と短いため、比較的すぐに返済(または貸倒れ)となって入れ替わる。

このように、仮に自動車ローンの延滞がさらに大幅に増加しても、世界の金融市場に対する影響は限定的である。しかし、米国景気への影響は無視できない。市場の大半が今年あと2回程度の追加利上とこれに伴う中長期金利の上昇を想定しているが、こうした見方に対する懸念材料の一つとして注目する必要があるだろう。