●欧米の金融政策は、揃って出口=緩和縮小へ。日本は、消費者物価伸び悩みに足を引っ張られ、マイナス金利維持を強いられる。

●日米で銀行株が売られ、資金が欧州に若干戻っている感。しかし、欧州の銀行に対する投資は金融緩和縮小が本格化すると不良債権が増加する恐れがあり、やや時期尚早。

●一方、米銀の収益環境は、確実な金利上昇や景気拡大を背景に良好。時間はかかっても規制緩和やインフラ投資等の確度は高い。邦銀に比べて収益にも株価にもアップサイドあり。

3月の各種イベント後、特に米国の利上げとその方向性に対する思惑で、金利や為替が大きく変動した(図表1。文末図表15に主な予定を記載)。これらを踏まえて、今後の世界的な金融政策の動向を整理しつつその銀行株への影響を検討する。

I.主要国の金融政策の動向:徐々に緩和縮小(出口)へと向かうが、日本は出遅れ

図表2の通り、先進主要各国で、英国BREXITや米大統領選などに揺れ動いていた昨年から、一気に引き締めモードに移行した。

そもそも、今回の金融緩和の縮小は、経済実態から言えばやや遅きに失した感がある。金融緩和に伴う世界的な債務の積み上がりや(図表3,4)、各国のインフレ率(図表5)、不動産価格(後掲図表6)からは、既に昨年半ば頃には緩和縮小に転じる条件が整いつつあったことがわかる。

昨年は、「年4回」との年初予想に対し、実際は「年1回」に留まった。このトラウマが、米国利上げへの淡い不安感を生んでいる一因である。

今年も確かに、トランプ政権の閣僚人事の遅れなど政策実行力が不安視されているが、それは"タイミング"の問題である。昨年のようなや英国EU離脱や大統領選など、底が見えないような不確実性ではない。今年も5月のフランス大統領選はテールリスク (可能性は低いが何かあったら一大事) だが、それを通過すれば、各国の経済情勢に応じた金融引き締めが本格化するだろう。フランス大統領選で大波乱が起きない限り、順当な「年3回」の利上げを予想する。

一方日本については、前掲図表5にもあるとおり、改善傾向とはいえゼロ近傍の低インフレが続いている。年後半から若干加速すると思われるが、それでも2%目標の安定達成は遠く、貸出増加ペースも緩く、他国のような地価上昇にも見舞われていない(図表6)。本格的な出口戦略に向かうのはまだ早いだろう。

とはいえ、マイナス金利深堀りの可能性は低いと思われる。国民からの印象の悪さ、地銀の経営難を招くとの批判や、米国の為替操作国批判への懸念等が根強いためだ。従って、更なる緩和の手段もないし、これ以上は国債を購入しにくい(その効果への疑念と買う国債が少ないため)、という"消去法"的な意味で、日本も、どちらかといえば金融緩和縮小の可能性が高い。しかし、そのスピードは、(あったとしても)極めて緩やかになり、政策金利は少なくとも17年度(18/3期)中はマイナス0.1%を維持すると考える。

なお、10年国債利回りのゼロ%のメドは市場金利に応じて引き上げられる可能性はあるだろう。しかしそれでも0.1%程度の小幅な動きに留まると考えられ、ドル円レートの支えになるだろう。

II. 銀行への影響

米国:米銀は引き続き好環境の恩恵大

このところ米銀株の下落が続いているが、経営環境としては、①金利上昇、②金融規制緩和、③貸出拡大期待の3点から引き続き改善傾向である。改善のペースについては、政治的混乱でスローダウンする懸念もあるが、いずれにしても、金利は上昇方向で、景気の拡大傾向も続くだろう。

特に、金融規制の緩和は、地銀などシンプルな預貸業務中心の銀行については、米国企業の活動を助ける上、予算の手当てが殆ど必要ないため、ある程度は実現するだろう。6月初旬までにムニューシン米財務長官が案を取りまとめる。これらのメリットを受ける米地銀は、アナリスト・コンセンサスでも今期は10%程度の増益予想となっており、まだ収益にも株価にもアップサイドがあると考える (図表7)。

欧州:回復基調だが、まだ局所的に懸念が残る。金融緩和縮小なら銀行間の格差拡大

欧州の銀行では全体としては財務の改善が見られるが(図表8、9)、依然、イタリアの銀行再建は道半ばである。

最大手のウニクレディトは3月初旬に130億ユーロの株主割当増資が終了した。しかし、大手第3位のモンテパスキは公的資金60億ユーロ超(報道ベース)を申請中で、ECBの返済能力審査待ちである。しかし、イタリアでは住宅価格がなかなか下げ止まらず(図表10)、全体に不良債権比率低下ペースは緩やかである(図表11)。主要2行の再建が終了したとしても、仮にイタリアの他の銀行が再建2行並みの不良債権引当金を計上した場合、大幅な資本増強が必要となる可能性がある。

その場合、イタリア政府が昨年末に準備した公的資金枠200億ユーロ(約2.4兆円)では足りない可能性が高い。

更に、今後ECBが金融緩和の縮小に向かうことで、欧州の銀行の不良債権が増大する可能性がある。イタリアへの影響はとりわけ深刻だが、それ以外でも低成長国(ギリシャ、イタリア、デンマーク、フランス、ポルトガルなど)に不良債権問題が波及するリスクがある。このような金融緩和縮小の副作用については、4月7-8日のEU財務相理事会で議論されると報じられている。

欧州で金融緩和の縮小が本格化すれば、銀行の格差が拡大するだろう。資本などの健全性が高いところは、金利上昇によって収益が回復し、それ以外は、金利上昇による景気後退で、再び不良債権が増え始めるというリスクにさらされるだろう。

日本:成長の材料が不足

日本は、世界の金融引き締めの流れからは遅れるため、邦銀が金利上昇の追い風を受けるにはまだあと1年は必要だろう。また、17年度に国内の貸出拡大が加速する要因には乏しい。これまで国内成長を後押ししていたアパートローンや消費者ローンなどの伸びが鈍化しそうで、これを補う要素は少ない。全国銀行ベースの来年度の国内貸出増加率は、今年度よりやや低い2%強に留まると予想する。

貸出利鞘は、マイナス金利導入影響が響いた今年度に比べれば、悪化速度が緩やかになるだろう (図表12)。ただし、特に預金の増加が著しいため、貸出に回し切れない金額(預貸ギャップ)が拡大し(図表13)、貸出競争は確実に激化するとみられる。このため、17年度の利鞘は6~8bp程度(マイナス金利の影響があった16年度は10bp前後)低下し、全行合計で約3,000億円の減益要因になると思われる。

これに対し、海外志向の強いメガバンクにはまだ若干の補完余地はあるとしても、国内の営業環境的には他国比かなり不利である。これまで利益を下支えしていた引当金の戻入益も期待できそうにない。このため、17年度の全国銀行の利益は楽観視できず、横ばいから微減益となる可能性が高いとみられる(図表14)。

ただし、短期金利底打ちの期待が少しでも出始めた場合、全く異なる展開が見えてくる。仮に、17年度後半に、インフレ率が1%を超え始め、日銀にも金融緩和縮小の期待感が高まれば、邦銀株には10余年ぶりの大幅な上昇も期待できるだろう。