「政府の意志」「個人金融資産と国のバランスシート」「個人投資家は賢い」と続いてきた5回シリーズの今日は第四回です。日本の株はこの20年間、世界の株が大きく上昇したのに対して殆ど上昇してないとか、或いはその反射として割安であるとか、よくそう云われます。なぜそうなったのでしょうか?これは端的に云うと、マザーマーケットである日本の投資家が日本株をあまり買わないからです。では前回説明したように、投資に関してとても賢い日本の個人は、どうして株をあまり買わないのでしょうか?

理由は3つあると思います。一つ目は前々回説明したように、政府は大量の資金を個人から借りて使うと云う方針を実行していますから、ちゃんと預貯金をしてもらわないと困る訳です。その反射として、株はあまり買わないことになります。これは「政府の意志」の問題です。

二つ目は日本経済の問題です。この20年間、世界中の殆どの国のGDPは大きく伸びました。しかし日本のGDPは殆ど変わっていません。日経平均が4万円近くから1万円未満まで売られた時に、日本のGDPは殆ど変わっていませんから、短期的には経済・GDPと株価は必ずしも連動しません。しかし長目に見ると、付加価値の総和であるGDPと、自由資本主義体制で付加価値を生むメイン・エンジンである上場企業の時価総額和が連動しない筈はなく、即ち長いスパンではGDPと株価には強い相関があります。日本の株が上がらなかった最大の理由は、日本経済が成長しなかったことです。資本市場整備よりもコーポレートガバナンスよりも、この問題の方が大きいと思います。
そして三つ目は税制です。親から子への富の移転の方法として、日本で最も一般的なのは不動産による移転です。かつて、税の基準となる路線価と時価には大きな差がありましたし、相続財産としての不動産価額には様々な控除もあります。一方株に関しては、不動産に比べて遙かに高いボラティリティ・価格変動性があるにも拘わらず、相続評価額は基本的に相続人の死亡時の時価であり、割り引きする掛け目もなく、控除もあまりありません。株の保有を促進しようとするならば、この税制を調整すべきです。例えば、そのボラティリティの高さに鑑みて、時価の80%を相続額と見做す、などのアイデアが考えられます。これも「意志」の問題ですが、実現はしていません。

これら3つの理由から(もちろん他にも色々な理由がありますが)、預金などとの比較として、株は買われないのだと思います。そうすると、預金以外の行動を考える人は、長期保有ではなく、「ならばトレーディング」と考えがちになるのは頷けます。次回はこのトレーディングと流動性について書きます。