今週は、16年3月期の企業決算発表が集中している。なかでも5月13日金曜日は東証上場のうち940社もの決算発表が予定されている。 銀行セクターの決算発表も今週ピークを迎える。株価は日銀の4月28日の追加緩和期待空振り後下落し、その後やや持ち直しているものの、依然として、1月末以降の下落率は全セクター中最大となっている(図表1。16/5/9終値ベース)。

今後についてはどうか。銀行株価や収益に影響を与えるTiborは、日銀が初めて実質ゼロ金利下で量的緩和を導入した2001年以来の低水準となっている(図表2)。今後も追加緩和の思惑で下落リスクが払拭できない上、高止まりの短期プライムレートについても、徐々に引き下げ圧力が高まる可能性がある。しかも、日銀当座預金のマイナス金利回避のため、貸出競争はより熾烈になるだろう。

一方、以前にもレポートした通り、銀行セクターは主要セクターの中で最も配当利回りが高く、資本に対して割安となっている(図表3)。厳しい経営環境ではあるが、これらの悪材料も既に市場には相当程度織り込まれているとみられる。もし、想定以上の利益下振れがないなら、良好な投資機会となろう。今後の収益動向について、今回の決算と、同時に発表される17/3期の会社計画について、チェックすべきポイントをまとめた。

16/3期、17/3期の決算発表と予想のチェックポイント

チェックポイント①:預貸利鞘の下落予想幅は楽観的でないか

銀行の貸出業務においては、小売業等の"売上単価"に当たるのが利鞘で、"売上数量"に当るのが貸出額である。経費や貸倒費用等を賄うには、数量も大事ではあるが、単価が下がらないことがより望ましい。しかし、マイナス金利下では、利鞘は下落が既定路線である。注目すべきは、今期の下落幅がどの程度で収まると銀行が予想しているのかである。これは、計画収益の楽観度を測る上で特に重要だ。

我々の16/3期の利鞘下落幅予想は、大手・地銀の平均で8bp(0.08%)強程度と、前年度の下落幅とほぼ同等だが(図表5)、これは、国内貸出収益の5-8%の押し下げ要因となっている。

問題は17/3期である。1月以降のTibor下落幅の影響が17/3期に徐々に顕在化するので、利鞘は10bp程度下落する可能性がある。因みに、前回Tiborが急落した11/3期には銀行の利鞘は平均10bp強下落した。今回もし同じくらい利鞘が下落したら、下落率は8~10%に上る計算になる。銀行によって、利鞘の厚い貸出を増やすなどの施策を打つので一概には言えないが、特段の施策も示されることなく利鞘が前年度程度かそれ以下しか下がらないような計画になっている場合、利益計画比未達となるリスクが高まるだろう。

チェックポイント②:貸出増加率と拡大分野~過度な集中と海外資金調達余力に注意

3月末の前年同期比の貸出増加率は全国銀行平均で2.6%程度と、ペースは緩やかである(図表6)。これに対して、17/3期に各行がどの程度の貸出拡大にコミットメントするのかを今期の計画値から読み取りたい。

17/3期は、3つの分野で拡大の余地がある。第一に不動産関連。マイナス金利の影響で、住宅ローンの需要が強い。特に目立つのは借り換えの申込みだが、地銀では、新規の申込み件数もペースが上がってきた模様である。また、住宅一件当たりの価格も上昇していることから、件数以上に貸出金額が増加する可能性もある。

企業の不動産投資意欲も高まっている。国土交通省の2月調査によれば、今後1年程度で不動産取得を拡大させたいとする企業数から減少させたいとする企業数を引いた差額はデータが見られる03年以降で最高となっている(図表7)。

但し、近年不動産貸出の活発化が目立つだけに、この分野に過度に依存していないかどうかを確認する必要があるだろう。

第二に個人向け無担保貸出である。これも貸出金利は市場金利の影響をさほど受けないため、一層活発化すると思われる(図表8)。銀行によっては、二桁%の増加率も珍しくはないとみられる。市場規模はまだ小さいが、利鞘が3~10%程度と平均貸出金利の3~10倍もあるため利益貢献も無視できない。但し、競争も激しくなっていることから、この分野も中長期的には利鞘低下の聖域というわけではない。

三番目は海外の貸出である。前年度比円高になっていることも響くため、前年ほどの伸びは期待できないだろう(前年度は大手行で7~10%強増加の計画だった)。それでも17/3期の計画も、+6~10%程度には設定されると思われる。但し、残高が大きくなるにつれて資金調達も厳しくなっており、将来的には外貨調達に関する規制も厳格化される。このため、貸出計画が外貨調達力に合致しているかどうかを十分チェックする必要があるだろう。

チェックポイント③: 株主還元策~減配は極めて考えにくい。自己株取得に注目

16/3期の配当については、現在の会社予想を引き下げる銀行はまずありえないだろう(図表9)。17/3期についても、減益予想の銀行も含め、殆どの銀行が一株当り配当額は維持するだろう。近年配当が引き下げられたのはリーマンショック直後くらいであり、マイナス金利導入は、銀行収益にとって痛いがそこまで大きなショックイベントではない。資本も当時に比べてはるかに厚い。

但し、減益で配当を維持する場合、配当性向が銀行の示す目標水準以上に上昇してしまう可能性がある。配当性向の上振れをどこまで許容するかは確認する必要があるだろう。

また、これまでも自己株取得を行ってきたMUFGや一部地銀については、17/3期も自己株取得を継続する可能性が高いと思われるものの、金額は利益や資本の見込み次第であることから、会社の方針発表に注目したい。

チェックポイント④:新中期経営計画の前提条件。金利等のシナリオが楽観的なら未達リスクも

今期は、マイナス金利導入後初めての中期経営計画スタートの年度となることから、各行が将来の利鞘をどう想定するのか、収益構成をどのように考えるのか、経費をどう圧縮するのか、再編や異業種買収等の抜本的な改革の意欲はあるのか等の様々な点に注目したい。

既に計画の概要を開示している銀行については、当期利益は上昇、ROE(株主資本利益率)やRORA(リスク資産に対する利益率)は横ばい程度としている銀行が多いが(図表10)、今後更に多くの銀行の中期経営計画が発表になる予定である。マイナス金利の影響をどこまで加味しているかは銀行によりばらつきが生じる可能性が高く、それらの前提条件次第では計画が未達となるリスクがある。また、株主還元は総じて拡充の方向と思われるものの、規制強化も見込まれることから、各銀行がどの程度の還元率を想定するのかにも注目したい。

まとめ

17/3期は減益かせいぜい横ばいの利益計画を提示する銀行が多いだろう。しかし焦点はむしろ、17/3期の利益が「底」になり、18/3期から回復軌道に乗せられるかどうか、それに向けた施策が今期中に打たれるかどうかである。マイナス金利が当面続くと想定される中、18/3期以降の早い時期に減益が止まるような施策が早い段階で示されるなら、現在の配当利回りやバリュエーションから投資妙味は十分にあるだろう。