4月28日、日銀は金融政策の維持を決定した(図表1)。緩和期待が高まっていた市場は、一気に円高、株安に巻き戻した。

市場は緩和効果を過度に見積もっていた感も

今回の維持は、既に追加緩和を織り込んでいた市場にとってはサプライズだった。しかし、追加緩和が実施されたとしても、以下の通り、銀行の貸出にとっても、企業収益にとっても、効果は限定的だったと思われるため、現時点での追加緩和を見送ったことには一定の納得感もある。

今回事前に話題となっていたのは、日銀が市中銀行に資金供給を行う「貸出支援基金」の金利を、現在のゼロからマイナス10bpに引き下げるかどうかだった。この期待が本日までの銀行株価を押し上げた。

しかし実は、この貸出支援基金は、導入されたとしてもプラス効果は限定的だったと思われる。図表2に示す通り、効果は年間数十億円に留まり、もしその分Tibor金利が連れ安になれば、むしろTibor下落に伴うマイナス影響の方が大きくなりかねなかった。

また事業法人にとっても、銀行が貸出金利をマイナスにはできないとしている限り、同じく効果は限定的であろう。事業法人の支払利息は近時低下しており、15/12月末で経常利益の5.4%にすぎない(法人企業統計より。従業員1,000人以上の法人)。このため、たとえ銀行等からの借入金利が圧縮できたとしても、利益への効果は1%未満と、ごく少額にとどまっただろう(図表3)。

なお、ユーロ圏でも3月10日に、ECBから市中銀行への金利を一部-40bpまで引き下げるという新たな措置を導入した。ユーロ圏の場合、現在の銀行預金金利は1%以上であるため、ECBから-40bpで資金供給できるなら銀行にとってのメリットは大きい。企業側にとっても、平均貸出金利が2.6~2.8%と高いため(邦銀は1%以下)、引き下げ余地が大きい。ところが、そのユーロ圏でも、マイナス金利での資金供給の開始直後の3月末時点ではまだ貸出の伸びが加速する兆しは見えない(図表4)。景況感が悪化していることが響いているとみられ、金利の恩典だけでは企業も銀行も直ぐには反応しないということの表れでもあろう。

日本では、市場センチメントへの働きかけもうまくいっていない。例えば、マネックス証券の4月初頭の個人投資家アンケート調査でも、1月29日のマイナス金利導入発表後に、「新たな投資を検討、または、実際に投資を増やした」と答えた投資家はわずか27%に留まり、大多数の73%の人々は「特に検討しなかった」と答えた(図表5)。また、マイナス金利幅が更に拡大したら、投資意欲は「減退する」という回答が、「高まる」という回答を大きく上回っていた(図表6)。

このように市場のマイナス金利への見方が懐疑的である間は、追加的措置は(特に金利については)、リスクが効果を上回ったと思われる。

当面の注目点:金融政策よりも財政政策や成長戦略

28日に発表された日銀展望レポートでは、16年度のコアCPIの予想は+0.5%と従来予想の+0.8%から引き下げられた。17年度も+1.7%と従来予想から若干引き下げられた。実績値としても、3月のコアCPI上昇率も、異次元緩和時以来初の低下幅となった。これらの状況から、次回6月の政策決定会合でも、再び金融緩和に期待が集まると思われる。しかし、どのような政策を取るにしても、それだけで経済成長や物価の上昇期待を醸成するには力不足だろう。

ユーロ圏でも、マイナス金利導入当初は、企業の景況感も個人の消費動向も、むしろ悪化してしまった(図表7)。その後1年程度で回復に向かったのは、ユーロ安に加え、原油安や地政学リスクの落ち着き等、金融以外の要因が大きかったとみられる。日本についても、ETFやJ-REIT、社債等の購入枠を拡大すれば、これらの資産の価格をダイレクトに押し上げるという局所的な効果はありうるものの、実体経済への効用は薄いだろう。当面の市場浮揚のカギを握るのは、むしろ、個人消費の活発化や企業収益の拡大を支援するような政府の成長戦略(5月末発表の「骨太の方針」)や補正予算等、政府側の施策だと思われる。