人を思うと書いて偲ぶ。漢字と云うものは、良く出来たものだと思います。三省堂の新明解国語辞典によると、「忘れようにも忘れられず心の中に生き続ける対象の存在や足跡に、今更のように思いを致す。」とあります。

「忘られむ 時偲べとぞ 浜千鳥 ゆくへも知らぬ あとをとどむる」
(古今集・雑歌下・読人知らず)

私を忘れそうになった時に偲んでもらいたくて、行方も分からない浜千鳥が残す足跡のように、ここに書き残します。−そんな意味でしょうか。浜千鳥の足跡のように筆跡が乱れるのは、別れを泣いているからでしょうか?或いは命が絶えつつあるのでしょうか?この歌は、偲ばれたい側から詠まれたものです。偲ぶ側は、筆跡など要らないし、或いはない方がいいかも知れません。偲ぶと云う感情は、心のかなり深い所にある精神作用でしょう。こう書いているうちに、私の筆も浜千鳥のように行方知らずになってきましたから。