郵便局がETFなどの投信の窓販をすることに前向きらしい。さて、私はこのことにつき、どう考えるか。個人投資家を増やす為、間接金融から直接金融への移行を促す為、という大義の下であるから、勿論基本的には歓迎したい。一方で民業圧迫という意見もある。あまりケチなことは言いたくないが、しかし民間が既に行っている業に国なりが参入する際には、その事業・その組織のコストをまず明らかにすべきであることは、資本主義経済の中では至極当然のことであり、よもやそのようなルールが守られないということなどはあり得ないと思っている。
しかしもっとも重要なポイントは、大義の下にやることであるならば、その大義に適った形でやるべきであるということだ。郵便局が投信窓販を開始するならば、同時に郵便貯金の預け入れ制限の引き下げとパッケージで行うべきだと考える。郵便局がコストも顧みず、預け入れ制限も引き下げずに投信窓販を始めれば、ただ単に銀行窓販分が郵便局に移るだけであり、直接金融への移行という大義は果たされず、郵便局への移行という、ただでさえ国家金融が肥大して困っている事情に逆行することが起きるだけである。郵便局の預け入れ制限はかつて300万円だった。今は1000万円であり、かつ管区が異なると名寄せは不可能とも伝え聞いている。少なくともかつてと同レベルの300万円まで預け入れ制限を下げ、かつコストを開示しながら初めて郵便局は投信窓販を開始すべきだと思う。その時は大いに歓迎したい。今は放っておいて日本の金融資産が膨張する時代ではない。直接金融資産を増やす為には、間接金融資産を減らしてそこからシフトさせる以外に道はないことを政策責任者は見えないふりをしてはいけないと思う。
- 松本 大
- マネックスグループ株式会社 取締役会議長 兼 代表執行役会長、マネックス証券 ファウンダー
-
ソロモン・ブラザーズ・アジア証券会社を経て、ゴールドマン・サックス証券会社に勤務。1994年、30歳で当時同社最年少ゼネラル・パートナー(共同経営者)に就任。1999年、ソニー株式会社との共同出資で株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)を設立。2004年にはマネックス・ビーンズ・ホールディングス株式会社(現マネックスグループ株式会社)を設立し、以来2023年6月までCEOを務め、現在代表執行役会長。株式会社東京証券取引所の社外取締役を2008年から2013年まで務めたほか、数社の上場企業の社外取締役を歴任。現在、米マスターカードの社外取締役、Human Rights Watchの国際理事会副会長、国際文化会館の評議員も務める。