我が国の資本収支をいつも注意深く見ています。日本がアルゼンチン化するか否か、即ち国民が母国を見捨てて資本が逃避しているかどうか、を見極める一手段として気にしています。
過去17年間の資本収支の平均は月マイナス8000億円です。毎月8000億円の資本が流出している訳ですが、これは我が国の貿易とか円借款などの構造から、そうなるのでしょう。去年の10−12月期、竹中プランなどで銀行不安に大きく揺れたあの時も、やはり月マイナス8000億円でした。資本収支で見る限り、国内金融機関に不安を持っていなかった訳です。今年の1−3月期は月マイナス4000億円でした。イラクや北朝鮮の問題があるこの時期に、却って資本の流出が少なかったことを示しています。「有事の円買い」とでも言いましょうか、不安になると手元に現金を置きたくなる、そういった性質が日本人にはあるのでしょう。タンスに現金預金している人も多いようですが、いくらなんでも銀行が潰れるリスクと、家が燃えたり、タンスから泥棒されるリスクを較べたら、前者のリスクの方が遙かに小さいに決まっています。それでも人はタンス預金をする。このような経済状況でも、なかなか円安にならない一つの理由が、この日本人の特性にあるのではないかと、私は思っています。
- 松本 大
- マネックスグループ株式会社 取締役会議長 兼 代表執行役会長、マネックス証券 ファウンダー
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ソロモン・ブラザーズ・アジア証券会社を経て、ゴールドマン・サックス証券会社に勤務。1994年、30歳で当時同社最年少ゼネラル・パートナー(共同経営者)に就任。1999年、ソニー株式会社との共同出資で株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)を設立。2004年にはマネックス・ビーンズ・ホールディングス株式会社(現マネックスグループ株式会社)を設立し、以来2023年6月までCEOを務め、現在代表執行役会長。株式会社東京証券取引所の社外取締役を2008年から2013年まで務めたほか、数社の上場企業の社外取締役を歴任。現在、米マスターカードの社外取締役、Human Rights Watchの国際理事会副会長、国際文化会館の評議員も務める。