不可解です。大証はナスダック・ジャパン(NASJ)市場に上場している各社に対して、「重要な会社情報の開示について」という文書を送りました(7月5日付)。内容は決算発表を始めとする重要な会社情報は、ED−NET(東証のTD−NETに相当する、報道機関向けの情報開示システムです)による開示から12時間の間はインサイダー情報であり、従って当該上場企業は、その情報をNASJのホーム・ページ(HP)や自社のHPにED−NET開示から12時間以内に掲載するとインサイダー・トレーディングを助長しうるので、そのようなことはしないようにというものです。これはおかしい。12時間はインサイダー情報であることは現法令では確かにそうですが、ED−NETを見て報道機関が書いた記事は二次情報となりもはやインサイダー情報にはなりません。それが新聞などであれば機関投資家も個人投資家も同じタイミングで読めるかも知れませんが、機関投資家向けの高価な情報サービスなどにまず最初に配信されますから、このような指導はプロと個人の間の情報較差を助長することになります。そもそも12時間ルールはインサイダー・トレーディングを規制するものではあっても、一旦公式発表された情報の拡散・伝播を妨げるものではない筈で、法の趣旨にも時代の要請にも逆行するものだと思います。当社では重要な会社情報はTD−NETでの開示直後、3分以内ほどに記者クラブへのプレス・リリースの投げ込み、当社HP上での開示を全て同じ文言・同じ内容で実施しています。HP上での開示については、上記の12時間ルールについても「ご注意」として明記しています。今回の動きは納得がいきません。何が契機でこういうことになったのか、誰かが横やりを入れたのか、などの疑念が止みません。きちんとした説明を求めていこうと思います。また、そもそも12時間ルール自体が、現代の情勢にもはや適合していないルールだと思われるので、このルール(証券取引法施行令第30条)の改正もしくは運用解釈についても提言をしていきたいと思います。
- 松本 大
- マネックスグループ株式会社 取締役会議長 兼 代表執行役会長、マネックス証券 ファウンダー
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ソロモン・ブラザーズ・アジア証券会社を経て、ゴールドマン・サックス証券会社に勤務。1994年、30歳で当時同社最年少ゼネラル・パートナー(共同経営者)に就任。1999年、ソニー株式会社との共同出資で株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)を設立。2004年にはマネックス・ビーンズ・ホールディングス株式会社(現マネックスグループ株式会社)を設立し、以来2023年6月までCEOを務め、現在代表執行役会長。株式会社東京証券取引所の社外取締役を2008年から2013年まで務めたほか、数社の上場企業の社外取締役を歴任。現在、米マスターカードの社外取締役、Human Rights Watchの国際理事会副会長、国際文化会館の評議員も務める。