日本では今、「成長」が大きなテーマになっています。政府は企業価値向上につながる成長投資を後押しし、最近のコーポレートガバナンス・コード改訂でも、価値創造ストーリーを明確にした「攻めの経営」が求められています。
一方で、M&Aで生じる「のれん」は、引き続き一定期間で償却するという日本の会計基準が維持されることになりました(国際会計基準(IFRS)とは異なる判断です)。このニュースに接し、「制度全体は同じ方向を向いているのだろうか」という疑問が生まれました。
会計には会計の論理があります。長年議論されてきた「のれん」の扱いは、正しさというより、どの価値観を重視するかという選択なのだと思います。保守性を重視する考え方には十分な合理性があります。しかし、「国の成長力」という視点に立つと、少し違う景色も見えてくるように思います。
多くのM&Aは未来を創るための成長投資です。もちろん、すべてが計画どおりに進むわけではありません。だからこそ重要なのは、失敗や想定外を恐れて挑戦しないことではなく、現実を率直に認識し、学び、必要なら方向転換しながら次の挑戦につなげることです。
その観点から見ると、のれんの定期償却は一定期間にわたり利益を押し下げます。また、仮に買収が想定どおりにいかず減損を計上しても、税務上はその損失がそのまま損金として認められるわけではありません。結果としてキャッシュ面の負担が残り、次の挑戦への一歩を踏み出しにくくなることもあります。「のれん」の処理については、会計基準だけではなく税制との関係も大きな課題に映ります。
制度は、一つひとつ見れば合理的です。しかし、それらが本当に同じ方向を向き、全体として日本の成長や価値創造を後押ししているのかと考えると、改めて考える余地があるように思います。
人も、会社も、国も、成長は挑戦から始まります。挑戦を求めるのであれば、その挑戦を支え、失敗から再び立ち上がれる制度もまた、同じ方向を向いている必要があります。制度は、人の行動を変えます。だからこそ、私たちは「どんな行動を後押ししたいのか」という視点から制度を考えることが大切なのだと思います。
- 清明 祐子
- マネックスグループ 代表執行役社長CEO/マネックス証券株式会社 取締役社長執行役員
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2001年4月株式会社三和銀行(現 株式会社三菱UFJ銀行)入行、2006年12月に株式会社MKSパートナーズに転じ、2009年2月にマネックス・ハンブレクト株式会社(2017年マネックス証券と統合)入社。2011年6月マネックス・ハンブレクト株式会社代表取締役社長を経て、2013年3月 マネックスグループ執行役員、2016年6月グループ執行役、2019年4月マネックス証券株式会社代表取締役社長に就任。2020年1月グループ代表執行役COO、2021年1月グループ代表執行役COO兼CFOに就任。2021年6月グループ取締役就任、2022年4月グループ取締役兼代表執行役 Co-CEO兼CFO就任、2023年6月より取締役兼代表執行役社長CEO(現任)。2024年1月マネックス証券取締役社長執行役員。
