もはや許容されないさらなる円安
2024年までの日本の為替介入は、米ドル/円が5年MA(移動平均線)を3割程度も上回るなど、かなり米ドル高・円安の「行き過ぎ」懸念が強くなったところで行われた(図表1参照)。別の言い方をすると、それほど「行き過ぎ」の懸念が強まった米ドル高・円安だからこそ、日本単独の為替介入でも止めることができたのだろう。
今回も同じように、日本単独の為替介入でも円安を阻止できるように米ドル/円が5年MAを3割程度上回るほど「行き過ぎ」懸念が強くなるまで待ってから介入を行うなら、米ドル高・円安は180円に達する計算だった。
ただ、180円まで円安阻止のための為替介入を見送るようなことなど、もはやとても許容されないと、当局は判断していた。実際そうした判断を裏付けるように、7月中旬にNHKが公表した世論調査では、円安が「日本経済に悪影響」との回答が61%と「好影響」との回答の22%を大きく上回った。
さらなる大幅な米ドル高・円安は、米トランプ政権にとっても受け入れがたいものになっていた。つまり早期の米ドル高・円安の阻止は、日米で利害が一致するものだったことが、4月末、米ドル高・円安が160円を超えたところで日本の当局が米ドル売り・円買い介入を始めた基本的背景だった。
「負け」が許されない介入=財政規律への懸念から介入見送り
米ドル/円は、2025年のトランプ政権発足後、一時139円まで米ドル安・円高となった。ただその後再燃した米ドル高・円安は日米金利差(米ドル優位・円劣位)縮小に反応せず、日本の財政規律への懸念を受けた長期金利上昇に連動するようになった(図表2参照)。
この財政規律への懸念が、高市政権のいわゆる「骨太の方針」決定や消費税減税などを巡って6月頃から改めて注目を集めた。そうした中では介入で円高になってもすぐに円安が再燃しかねなかった。当局者たちの中には、介入は失敗、いわゆる「負け」は許されない、つまり「勝つ介入」でなければならないという考えが引き継がれ、160円を大きく超えて円安が広がる中でも介入を見送る判断になったとみられる。
米国からの強力な支援という2024年までとの違い
金利差縮小にもかかわらず、財政規律への懸念を受けて円売りで反応する動きは、2025年7月の参院選で野党の財政ポピュリズムへの支持が広がる頃から目立つようになった。そうした中で高市政権の掲げた積極財政は円売りの標的になった。
このように最近の円安が財政規律への懸念をテーマとしていることからすると、円安トレンドの転換のためには、高市政権の経済政策の転換が必要なことを当局も強く意識していた。しかしそれを待つだけでは、円安はさらに広がる懸念が強い。
7月30日、日本の当局は約3ヶ月ぶりに米ドル売り・円買い介入を再開した。FOMC(米連邦公開市場委員会)終了と高市総理の消費税減税の決断により、当面の米ドル買い・円売り材料がほぼ出尽くしたとの判断によるものだった。
翌7月31日にかけて2営業日連続で為替介入を行う中で、163円台から157円台まで米ドル安・円高へ戻す動きとなった(図表3参照)。2営業日連続で介入を行うことで円安幕引きを目指すのは、2022年10月、2024年7月の場合も同じだった。ただそれらと今回では大きな違いがあり、それは米国の通貨当局との強い連携だった。
7月30日は、日本が米ドル売り・円買い介入に動くとともに、米当局は円安けん制の「レートチェック」を行う形で円安阻止に協力したとみられている。そして7月31日は、ユーロ/円でも「レートチェック」を行うとともに、一部メディアによると実際にユーロ売り・円買い介入に動いた可能性もあったという。日米協調の円買い介入となると1998年以来になる。2024年までの日本単独介入とは異なり、まさに日米の利害の一致を受けて、早期の円安阻止に動いたということだろう。
円安マインド払しょくのため150円まで円高への反転目指す
ただし、2022年以降150円を超える大幅な円安が繰り返される中で、根強い円安マインドが浸透していることを当局も理解しており、円安マインドの払しょくのためには、まずは米ドル/円の水準自体を変える、少なくとも150円程度まで円高へ反転させることが必要だと考えている。
大きく円売りポジションに傾斜した投機筋を、円高による損失を回避するべく円買いに転換させることなども意識しながら、必要とあれば介入額が前回、ゴールデンウィーク介入の合計11兆円を上回ることも想定した上で、かつてない日米連携によりまずは150円程度までの円高への反転を目指す考えとみられる。
