AI進化の原動力「半導体」、投資家が知っておくべき3つの基本構造

人工知能(AI)の普及・進化は日々の生活においても実感できるほど目覚ましいものがありますが、同時にそれを支える「半導体」への注目も高まっています。

半導体とは、電気の流れを制御する性質を持つ材料や、それを用いた電子部品・集積回路を指します。一般に私たちが「半導体チップ」と呼ぶものは、シリコンウエハ上にトランジスタや配線を作り込み、最終的に樹脂や金属などで保護・接続できる形にしたものです。チップ内部に作り込まれた微細な回路の働きによって、AIアプリケーションや、携帯電話・パソコンといった電子機器も動いています。

半導体は、大きく見ると、
(A)チップの機能や回路を決める「企画・設計」

(B)シリコンウエハ上に微細な回路を作り込む「前工程」

(C)チップを切り出して保護・接続し、性能を検査する「後工程」という流れで作られます。

投資家の視点では、この流れを理解しておくことが重要です。なぜなら、半導体関連企業といっても、設計に強い企業、製造装置を手掛ける企業、材料を供給する企業、製造を受託する企業、検査装置を提供する企業など、役割によって収益構造や必要な設備投資の大きさが異なるためです。

本稿では、市場参加者としての視点から、半導体の製造工程と関連企業、さらに各企業の投資効率について見ていきたいと思います。

分業化が進む半導体ビジネス:IDM、ファブレス、ファウンドリとは?

半導体産業では、先ほど見た「企画・設計」「前工程」「後工程」を、1社で担う場合もあれば、複数の企業が分担する場合もあります。

1社で設計から製造までを手掛ける企業は、IDMと呼ばれます。IDMとはIntegrated Device Manufacturerの略で、日本語では垂直統合型の半導体メーカーと説明されます。例として、インテル[INTC]、サムスン電子、SKハイニックス、マイクロン・テクノロジー[MU]、キオクシアホールディングス(285A)などが挙げられます。

一方、近年、その存在感を高めているのが、各工程を複数の企業で分担する水平分業型です。たとえば、エヌビディア[NVDA]やアドバンスト・マイクロ・デバイセズ[AMD]のように半導体の設計を得意とする企業は、ファブレス企業と呼ばれます。ファブレスとは、自社で大規模な製造工場を持たず、設計を中心に手掛ける企業を指します。

これに対して、ファブレス企業などから製造を受託する企業はファウンドリと呼ばれます。台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング(TSMC)[TSM]は、その代表的な企業です。

特にAI向け半導体や高性能CPU、GPUなどのロジック半導体では、ファブレス企業とファウンドリ企業が役割分担する水平分業型の存在感が高まっています。ロジック半導体とは、計算や制御を担う半導体のことで、その中でも、特に高い演算性能や省電力性能が求められるものは、先端ロジック半導体と呼ばれます。

一方で、データを記憶するメモリー、電力を制御するパワー半導体、現実世界の信号を扱うアナログ半導体などでは、IDMの存在感も大きく、製品の種類によって産業構造や投資負担は異なります。本稿では、個人投資家が半導体産業の全体像をつかみやすいように、まずは水平分業型を念頭に製造工程を整理します。半導体の種類ごとの違いについては、次回以降で詳しく取り上げます。

【工程A:企画・設計】半導体の「頭脳」を描く企業と素材メーカー

最初のプロセスとなる、(A)企画・設計工程(図表1)では、まず、半導体製造企業(半導体メーカー)や設計企業がITやエレクトロニクス業界の先行きを予想して、求められる処理スピードやコア数(CPU内のプロセッサ数)、消費電力、価格といった仕様を決めて、新製品の方向性を固めます。これにしたがって、半導体回路の自動設計システム(EDA)で設計が行われます。こうして作成された設計データから、写真のネガフィルムに相当するフォトマスクに、微細な回路パターンが描画されます。これらと並行して、ケイ石を原料にシリコンウエハが作られます。

【図表1】半導体ができるまで:企画・設計工程
※(A)の工程を前工程に含める場合もありますが、本稿では便宜上、別工程として説明しています。また、上記はあくまでイメージ図であり、製品の違いなどにより実際の製造手順や使用される材料・装置・ツールとのずれがある場合があります
出所:マネックス証券作成

エヌビディア[NVDA]やアドバンスト・マイクロ・デバイセズ[AMD]が代表例

企画・設計工程に関わる企業としては、半導体の設計・開発に従事するエヌビディアやアドバンスト・マイクロ・デバイセズが代表的です。また、設計に使われる知的財産を提供するアーム・ホールディングス[ARM]や設計・検証ツールを提供するシノプシス[SNPS]など、海外企業が目立ちます。一方、シリコンウエハを手掛ける信越化学工業(4063)やSUMCO(3436)、半導体の回路パターンをウエハに転写する際の原板となるブランクスで世界シェアNo.1のHOYA(7741)など、材料関連では存在感を放つ日本企業もあります(図表2)。

【図表2】企画・設計工程に関わる企業例
※上記の企業名はあくまで一例。複数の材料・装置を手掛ける企業がある点にも留意
出所:マネックス証券作成

【工程B:製造:前工程】ナノレベルの微細加工を支える高い技術力

第2段階目のプロセスに進み、(B)製造・前工程に入ります(図表3)。

この工程の最初は、半導体製品の土台となるシリコンウエハの洗浄で平坦化します(工程4:洗浄)。半導体はナノレベルの微細な構造を有しており、目に見えないレベルの粒子でも大敵とされるため、清潔さは極めて重要となります。

続いて、シリコンウエハに膜を生成(工程5:成膜)し、フォトレジスト(感光材)を塗布します。フォトレジストは、光を受けることで化学反応を起こす感光性材料です。シリコンウエハ上に薄く塗られたフォトレジストに光を照射することで、回路設計に沿ったパターンが浮かび上がります。

そこで、(A)企画・設計工程で作成したフォトマスクをシリコンウエハにかざし、上から光を当てることで、回路を転写します。その後、不要な部分のフォトレジストを現像液で溶かして「回路の型」を作ります(工程6:フォトリソグラフィ)。次に、その型に合わせて回路パターン以外の不要な膜を削り取り、フォトレジストもはがすことで回路パターンができます(工程7:エッチング)。

さらに、シリコンウエハにイオンを注入します。シリコンウエハは、そのままでは電気を通しにくいものの、リンやボロンといった不純物を加えると電気を通しやすくなるため、電気的な性質を精密に調整するためにイオン注入で不純物を加えます(工程8:イオン注入、熱処理)。その後、シリコンウエハの表面をきれいに整えますが(工程9:平坦化)、洗浄~平坦化を繰り返したうえで(集積度を高めるため繰り返しにより多層構造化)、検査を行い前工程は終了となります。

【図表3】半導体ができるまで:前工程
※ポジ型の例。ネガ型の場合には、光が当たった部分が残り、回路パターンになる。上記はあくまでイメージ図であり、製品の違いなどにより実際の製造手順や使用される材料・装置・ツールとずれがある場合があります 
出所:マネックス証券作成

製造・前工程の主要企業:東京エレクトロン(8035)、KOKUSAI ELECTRIC(6525)など日本企業が多数

製造・前工程に関わる企業には、多くの日本企業が名を連ねています(図表4)。様々な半導体製造装置を手掛ける東京エレクトロン(8035)を筆頭に、半導体の性能を左右する成膜プロセスの装置において高い技術力を備えるKOKUSAI ELECTRIC(6525)やコーター・デベロッパーを提供するSCREENホールディングス(7735)などが挙げられます。

また、回路パターンが描かれたレチクル(半導体の設計図が描かれた原版)に光を照射し、そのパターンを投影レンズを通してウエハ上に転写する露光装置を扱うキヤノン(7751)やニコン(7731)もあります。また、この分野ではオランダのASML[ASML]が競争優位性を有しているとされています。

他方、製造・前工程全体を通した特徴として、水平分業型の場合には製造を受託するファウンドリと呼ばれる企業があります。他社からの委託で半導体チップ製造の前工程を請け負う製造専業の企業を指し、台湾セミコンダクター・マニュファクチャリングがリーディングカンパニーとして知られています。

【図表4】製造・前工程に関わる企業例
出所:マネックス証券作成
 ※上記の企業名はあくまで一例。複数の材料・装置を手掛けている企業がある点にも留意

【工程C:製造・後工程】チップを製品化する最終関門と「OSAT」の台頭

製造・後工程の具体的な流れ

前工程を終えると、チップは次の工場へと移送され、製品に仕上げていく後工程へと続きます。まず、シリコンウエハ上のチップの切り離しを行います(工程10ダイシング)。その後、チップを金属製のフレームに固定するダイボンディングへと進みます(工程11)。さらに、チップ上の電極と金属のフレームを金属の線で結ぶワイヤーボンディングに進みます。

そして、小さなほこりや衝撃から保護するために、チップと配線部分を樹脂で固めるモールディング(封止)という工程に進みます(工程13)。ここまで来るとひと安心と思いきやもう一つ重要な工程があり、最終検査工程となります(工程14)。これにパスすると合格品であることを示す刻印が押されます(工程12)。

【図表5】半導体ができるまで:製造・後工程
※上記はあくまでイメージ図であり、製品の違いなどにより実際の製造手順や使用される材料・装置・ツールとのずれがある場合があります
出所:マネックス証券作成

製造・後工程の主要企業:ディスコ(6146)、TOWA(6315)のほか、OSATにはアムコー・テクノロジー[AMKR]など

製造・後工程に関わる企業には、半導体チップを切り出す装置を手掛けるディスコ(6146)や半導体チップを封止する装置を提供するTOWA(6315)があります。検査関連としては、半導体のテストシステムを提供するアドバンテスト(6857)があげられますが、米国のテラダイン[TER]と競合関係にあります。

製造・後工程全体を通した特徴として、半導体製品の組立とテストに特化して請け負うOSATと呼ばれる企業もあります。OSATとはOutsourced Semiconductor Assembly and Testの略で、半導体の組立や検査を外部受託する企業を指します。具体的な企業としては米国のアムコー・テクノロジー[AMKR]などが挙げられます

【図表6】製造・後工程に関わる企業例
※上記の企業名はあくまで一例。複数の材料・装置を手掛けている企業がある点にも留意
出所:マネックス証券作成

上記以外に、半導体の設計から製造まで一貫して自社で行うIDMがある。例として、インテル[INTC]、サムスン電子(韓国企業)、SKハイニックス(韓国企業)、マイクロン・テクノロジー、キオクシアホールディングスなどが挙げられる。インテルやサムスン電子はファウンドリ事業も展開している。

数字で見る投資効率:巨額投資を乗り越えキャッシュを生む企業は?

半導体業界では資本集約型のビジネスを手掛ける企業が多くみられ、投資と収益の関係も気になるところかと思います。そこで、投資資金を事業活動によってキャッシュとして回収できるかを見極めるために、市場予想を含めた売上高投資比率と売上高フリーキャッシュフロー比率を確認すると、いくつか特徴が見えてきます。

日本企業の傾向:手堅いキャッシュの創出と各社の立ち位置

まず、日本企業の場合には、売上高投資比率で4-14%程度、売上高フリーキャッシュフロー比率は0-15%程度の水準に集まっているように見えます。この点は過剰な投資という賭けを避けつつ着実にキャッシュを創出する姿を示唆しているように思われます。一方、米国企業については横軸・縦軸ともに企業ごとにばらつきが大きく、思い切った投資に踏み切る見通しの企業と、投資を抑制しながらキャッシュフローを創出すると予想される企業が混在しています。

具体的に見ていくと、図表7の日本企業では、レーザーテック(6920)やアドバンテストが相対的に少ない投資額で高いキャッシュフローを創出する見通しであるとわかります。この点は、競争優位性を背景に効率的に収益をあげる力を有していることに加え、支出などを抑制してキャッシュフローを創出する経営力を備えていることを示唆していると考えられます。

一方、SUMCO(3436)については先々で見込まれる売上高に比して大きな投資になる見通しとなっています。AI関連で既存設備の高度化が求められるなかで、支出がかさむ可能性がありますが、需要が堅調であれば、投資に見合った収益あるいは予想を上回る収益をあげる可能性もあります。

【図表7】日本における主要企業・売上高投資比率と売上高フリーキャッシュフロー比率
※フリーキャッシュフロー、投資(資本的支出)、売上高は直近会計年および向こう2年(市場予想、会計年ベース)のデータ
出所:ブルームバーグのデータをもとにマネックス証券作成

海外企業の傾向:ファブレスモデルの高効率と巨額投資をこなすTSMC

他方、図表8では米国を中心とする海外企業の売上高投資比率と売上高フリーキャッシュフロー比率を確認しています。まず、最先端の半導体製造への対応が求められるTSMCは売上高見通しに比して大きな投資が必要になるとみられますが、比較的高水準のキャッシュフローを創出する見通しとなっています。

また、エヌビディアとブロードコム[AVGO]について、少ない投資で相対的に高いフリーキャッシュフローを創出すると見込まれている点も目立ちます。製造をTSMCなどのファウンドリに委託するファブレス形態をとることで、巨額の装置投資リスクを回避できる点は、同社の経営戦略の強みと考えられます。6月に入り、冴さえない株価推移となっている両社ですが、将来に向けた投資とキャッシュフローの創出力という観点からは前向きに捉えられ、今後の動向が注目されます。

【図表8】グローバルにおける主要企業・売上高投資比率と売上高フリーキャッシュフロー比率
※フリーキャッシュフロー、投資(資本的支出)、売上高は直近会計年および向こう2年(市場予想、会計年ベース)のデータ。BEセミコンダクター・インダストリーズとキューリッキ&ソファ・インダストリーズは予想データがないため除く
出所:ブルームバーグのデータをもとにマネックス証券作成

半導体株投資では「利益とキャッシュの源泉」の見極めが重要

半導体関連企業への投資では、AI需要の拡大という大きなテーマだけでなく、各企業がバリューチェーンのどこに位置し、どの程度の設備投資を必要としながらキャッシュフローを生み出しているかを確認することが重要です。ファブレス企業は相対的に軽い資産で高い収益を実現しやすい一方、材料、製造装置、ファウンドリ、後工程企業は、設備投資負担や需要サイクルの影響を受けやすい面があります。
    
したがって、半導体株を見る際には、「半導体需要が伸びるか」だけでなく、「その企業がどの工程で、どのように利益とキャッシュを生むのか」を見極める必要があります。次回以降は、ロジック半導体、メモリー、パワー半導体など、半導体の種類ごとに異なる成長要因や投資テーマについて整理していきます。