2026年6月5日(金)日本時間21:30発表
米国 2026年5月雇用統計、他
【1】結果:雇用者数は市場予想を上回る伸び、3月・4月も上方修正
2026年5月の非農業部門雇用者数は前月比17.2万人増となり、市場予想の8.8万人増を大きく上回りました。また、3月・4月分の雇用者数は合計で9.3万人上方修正され、想定以上に労働市場の強さがうかがえる内容となりました。実際に、非農業部門雇用者数の前月比3ヶ月移動平均線をみると、トリム平均を上回る水準まで持ち直していることがわかります。
内訳を見ると、2026年5月は民間・政府部門ともに雇用の伸びが確認されました(図表1-2)。政府部門が前月比5.2万人増となり、単月の増加が5万人を超えるのは、2024年7月以来です。また、3月・4月分データの上方修正により、サービス関連の雇用も堅調に伸びていることがわかります。
失業率は小数点以下2位までの数値で4.30%となり、前回から0.04ポイント低下しました(図表2-1)。就業率が59.2%と0.1ポイント上昇した一方で、労働参加率は61.8%で前月から横ばいとなりました。労働力人口が緩やかなペースながらピークアウトしている(図表2-2)ことが主因で、失業率は横ばい圏で推移しています。
【2】内容・注目点:強い労働統計も過度な安心は禁物
6月5日の米国株式市場は、堅調な雇用統計の結果がFRB(米連邦制度理事会)の利下げ期待を後退させるとの見方から、主要3指数が揃って下落しました。市場では、年内の利上げを想定する向きもあり、利下げが米経済を支えるとの思惑が崩れている印象です。市場の目線は、原油高を起点としたインフレ率の上振れだったというところでしょう。
もっとも、労働市場が先行きも今回のようなペースで伸び続けるかは不透明ではないかと考えています。図表1-2にあるように医療・教育を含めたサービス関連の雇用が、増分の大半を占めるなかで、米国では今月から開催されるサッカーワールドカップに向けた飲食店などで雇用が増えたとの指摘もあります。一部ではあるものの、イベントによる特需的な雇用増の可能性には留意が必要でしょう。加えて、求人数は最新のJOLTS(雇用動態調査)で上昇が確認されたものの、労働需給は引き続き緩和的な推移が見込まれます(図表3)。
図表3は中小企業の企業経営者による未充足求人割合(公開している求人における埋まらない求人数の割合)と失業者1人あたりの求人数を比較したもので、青線が先行していることがグラフから示唆されます。未充足求人割合は一時期よりも低下していることがわかりますが、これは企業サイドから見れば一時期比で採用難の傾向が改善されている状況といえます(もしくは新規採用を増やす必要がない状況といえます)。
一方で、失業者から見れば1人あたりの求人数が低下傾向であるということは、就業の難しさに直結し、求人と失業者の比率において後者のほうが多い状況では、失業者間の競争が発生することで失業者期間が長引くことが懸念されます。2指標は底打ち感が見られていたものの、最新の先行指標(図表3、青)は再び悪化が確認されています。今回のデータが市場予想を上回る内容で、市場に安心感を与える内容ですが、警戒レベルが以前ほどではなくなったというのが、筆者の見方です。
【3】所感:物価を重視する局面であるが、利上げは尚早だろう
前述のように、雇用の強さを前面に出して評価するのは時期尚早と考えられます。とはいえ、物価の上振れに注意を払う局面であることは、前月の同レポートで指摘したとおり、間違いありません。米国は日本などのエネルギー関連の輸入依存度が高い国と比較すれば、依存度の低さから原油高の影響が軽微と考えられますが、実際には輸送コストや食料品などを通じて、グローバルなインフレ上昇の影響を受けると言えます。
食料については石油が農業生産・流通の複数の段階(農機具、肥料生産、輸送、冷蔵など)における投入要素として不可欠であり、そのコストがサプライチェーン全体に転嫁されると考えられます。実際に、原油価格と世界の食料品の価格を見れば、その連動性が確認でき、米国も例外ではなく、食料のインフレの上振れ圧力がかかると想定されます(図表4)。日本も含めて言えることですが、コストプッシュ・インフレには、金融政策による対応余地が限定的とも考えられるため、米国においても、利上げはまだ尚早と思われます。
マネックス証券 フィナンシャル・インテリジェンス部 山口 慧太
