トランプ米大統領にとってのイラン戦争の意味とは?

吉田:イラン戦争は終結できるのでしょうか? 

吉崎氏:イランの歴史などを考えると、早期の終結は難しいでしょう。ただマーケットの受け止めはどうかというと、とりあえず株価はほぼ元に戻りました。これはやはり「TACO神話」が生きているということでしょう。

トランプ氏は全くガバナンスの効かない人です。でもマーケットのことは気にしているので、いよいよとなったら自分の過去に言っていたこととかスカッと忘れて妥協できてしまう。何度もそれが繰り返されてきたため、みんなまだ信じているわけですね。まずトランプ氏の危機回避能力というものを過小評価してはいけないということでしょう。

一方で、トランプ氏も大統領就任期間は残り2年半と少しです。最後までうまく完走できるかは現時点ではわからない。「あのトランプ氏でもいよいよダメか」となるのか、現状はそれをほぼ確率半々でみなければならないという状況だと思います。

 
吉田:イラン戦争がトランプ米大統領にとって不本意な状況が続いた場合、最終手段としてどんなことが考えられますか。

吉崎氏:これは一つの仮説ですが、今回の最終決断に大きな影響を与えたのが、トランプ政権の関税措置に対して、2月20日に最高裁によって違憲判決となったことだと思います。トランプ氏はこれにものすごく不満があり、内政はともかく外政は好きなことができるということが、イラン攻撃に大きく影響したのだと私はみています。一方で、トランプ氏はやっぱり戦争嫌いな人なので、さすがにこの先も核兵器を使うようなことはないと思います。

国際秩序はどうなるのか?

 
吉田:第2次大戦以降、米国の安全と繁栄の前提として国際秩序や自由主義経済が必要との価値観がありましたが、トランプ米大統領の価値観はそれと正反対です。米国はもうかつての価値観には戻らないのでしょうか。

吉崎氏:トランプ時代がいつまで続くか、いつ民主党に主導権が戻るかなどによって異なると思うですが、かつての国際秩序が必要とされた価値観に簡単に戻るとは考えにくいですね。

吉田:それではカナダのカーニー首相が言うような、米国抜きの新たな国際秩序の構築は実現可能なのでしょうか。現実性のある新たな国際秩序についてどのようなイメージをお持ちですか?

吉崎:こうした発言は差し控えたいところではあるのですが、国際秩序はある程度破壊がされ、破壊され尽くした後に出来てくるものです。まだ壊れつつある段階で、次の秩序というのはなかなか見えないだろうなと思います。

こうした時に何が起きるというと、当面は米中ロの3つのメジャーなパワーの中で、ミドルパワーがどうやって次の秩序を作れるかということ。このような葛藤した状況がしばらくは続くのだろうと思います。また、各国の首脳が日本を訪問し、高市総理に面会しているのは、日本にミドルパワーとしてのポテンシャルを期待しているからだと考えています。

一方で、米国が現状のような状況になったのは、米軍が強くなりすぎた影響もあると思います。 AI などの力もあって、過去の軍事作戦と比較すると、米軍の被害が小さい。例えば、ベネズエラ大統領の拘束時の軍事作戦は、米兵側の死者は一人もありません。その結果、国民がこれらの軍事作戦で以前よりも痛みを感じていないと考えられます。これほどのことやっても米国内でほとんど反戦運動が起きていない状況というのは、以前なら考えられないことです。

トランプ米大統領は夏を乗り切れるのか?

吉田:この先、トランプ米大統領と米国はどのような動向になるのでしょうか?

吉崎氏:問題はやっぱり夏ぐらいですね。夏に中間選挙の予備選がほとんど終わります。そうすると、共和党の個々の議員たちが、自分自身の再選のためにはトランプ氏に逆らう方がいいのか従う方がいいのかであったり、その時点でのガソリン価格がどうなっているかなど、状況に応じて反トランプの動きは夏場にかけて広がっていく可能性はあると思います。

私は、最近よく報道されている修正 25条が発動される可能性は低いと思っています。合衆国憲法修正 25条は、米国の大統領に明らかな異変があった時に、閣僚の半分の署名かつ副大統領が承認すれば大統領の職務を止めることができるというものです。これは、結局ヴァンス副大統領次第ですが、容易ではないと思います。最後に、鍵を握るのはあくまで民主党ではなくて、共和党の内部だということです。