「マグニフィセントセブン」主導に変化、投資家の物色対象が他業種へ広がる
米国株式市場では、過熱感が指摘されてきた中で、これまで市場をけん引してきた大型ハイテク「マグニフィセントセブン」主導の上昇から、足元では投資家の物色対象が他業種へ広がりつつあります。S&P500指数は高値圏で小康状態ながら、構成銘柄間のパフォーマンス格差は拡大しており、市場内部では循環的なローテーションが進行しています。
業績は依然として大型ハイテク銘柄が優位
もっとも、業績を見た場合、依然として大型ハイテク企業の優位性は明確です(図表2)。業績×PER=株価という基本を考慮すると、すでに高位にあるバリュエーションが上値抑制に働くものの、業績成長が株価を押し上げます。
ただし、業績伸長が緩やかなセクターや銘柄では、物色が進んだとしても相場全体を力強く押し上げる牽引力は限定的とみられます。
仮に相場の主役が大型ハイテクから他のセクターへシフトした場合、それらの業績成長率が相対的に穏やかであることに加え、指数への寄与度も大型株ほど大きくないため、指数全体としてはこれまでのような力強い上昇基調を維持しにくくなる可能性があります。その結果、ここ数年の年率20%前後といった高い指数リターンとは異なる展開も想定されます。
止まらないAIへの巨額投資、留意しておきたい短期的なリスクは?
マクロ経済環境で鍵となるのが、AI関連投資の急拡大です。マグニフィセントセブンを中心とする企業群は、AI、クラウド、半導体、データセンターへの巨額投資を進めており、2026年の設備投資規模は約6,500億ドル規模と見込まれています。これは米国GDPの約2%にも相当する巨大なものです。
ただし、設備投資の増加が直ちに生産性向上に結びつくとは限りません。特にAIやデジタル技術への投資は、その効果が企業内の業務効率化やコスト削減などに現れる一方で、マクロ経済統計に表れる「全要素生産性(TFP)」としての効果が統計的に確認されるまでには、時間差があると指摘されています。
一方、市場で見られる過度な期待には反動リスクがあるなど、AIは成長ドライバーであると同時に、市場ボラティリティを高める構造的要因でもあります。こうした状況を踏まえ、短期的には半導体の売り上げサイクルに足元で成熟感が出てきている点も留意が必要でしょう。
AIが経済を本格的に押し上げるのはいつ? 短期統計での判断は慎重に
サンフランシスコ連銀によると、現時点におけるAIの利活用はまだ発展途上にあり、AIの総体的な生産性向上効果は現時点のマクロ統計では限定的であると評価されています。これは、AIが経済全体に十分浸透し、統計的に検出可能な形で生産性を押し上げるまでには時間がかかるという見方です。
歴史的な例として、電気が広く経済に波及し生産性を大きく高めるまでに約100年の時間を要したことが示されており、AIもまた変革が見え始めたとはいえ、統計上の明確な効果が現れるには時間が必要である可能性が強調されています。
実際、汎用技術(GPT)の歴史を振り返ると、技術そのものの発明よりも、それを社会全体に適応させる制度・組織・スキル体系の再設計に長い時間がかかることが知られています。したがって、短期統計だけでAIの経済効果を判断することには慎重であるべきであり、企業レベルの導入率、産業別活用状況、初期的な労働生産性改善といった指標を併せて評価する必要があります。
AIが有する潜在力とは?中長期的な構造変革のポテンシャルに注目
AIも同様に、汎用技術として社会全体を再編し得る長期トレンドである可能性があります。短期的な統計データのみでは把握できない構造変化が水面下で進行している点は重要であり、中長期的に見れば、AIによる生産性向上への期待は依然として根強いといえるでしょう。さらに、AIは単なる業務効率化にとどまらず、新たなビジネスモデルの創出や産業構造そのものの変革を促す潜在力を有しています。
米国株市場は短期的には過熱感や業績成長の偏りといったリスク要因を抱えるものの、物色の広がりや設備投資の大規模さは中長期的なポテンシャルを示しています。特にAI技術に関しては、現時点での統計上の生産性効果が限定的であるという現実を踏まえつつ、時間をかけた変革の可能性を見据える必要があります。
