私の特技のひとつに、「どこでも眠れること」があります。学生時代は通学電車でつり革につかまりながら寝ていましたし、山小屋でもテントでもぐっすり眠れます。海外出張の長時間フライトも、映画は観ずに、食べて寝て仕事して終わる。そんな調子なので、機内エンタメとはあまり縁がありません。
ところが、先日の米国出張の帰り、ふとしたきっかけで映画『366日』を観てしまいました。観るつもりはなかったのに画面の世界に引き込まれ、気づけば涙が止まりませんでした。展開を予想しては涙腺が緩み、冷静になろうとしてもまた涙があふれる。「こんな設定、現実にある?」という場面でも、私は、物語の「感情のリアル」に反応して、ただひたすら泣いていました。もともと私は、「泣くこと」を自分のストレス解消法のひとつとして認識しています。心の中に溜まった感情を、涙というかたちで解放する。そんな瞬間があるから、また次の日を整えて迎えられるのだと思います。
しかしながら、私が泣くなんて想像できない、という人が多いです。割とタフで動じないタイプに見えるらしく、「強い」と思われがちですが、実はとても「気にしい」です(笑)。なので、ちゃんと泣きますし、むしろ「泣く」という行為を積極的に活用しているのです。外に見える印象と、内側のストレスマネジメントは、案外違うものです。
「ストレス発散」というと、運動や飲みに行く、趣味に没頭するなどが主流かもしれません。私もランニングや登山、ゴルフといった「アクティブ系」の方法を好んでいます。けれど、テレビドラマや映画の中にある「優しい世界」が私の内側を救ってくれているのも確かです。特に私は「泣けるドラマ」が好きです。2021年のベストは『最愛』、2022年は『Silent』。どちらも、ただの恋愛ではなく、「人が誰かを思うこと」の尊さが描かれていて、心を揺さぶられました。今クールでは、『続・続・最後から二番目の恋』の、大人のユーモアと温かさを感じる世界に癒されています。
誰にでも、心が疲れる瞬間があります。落ち込むときも、怒りが込み上げることもある。そんなときに「泣く」という選択肢を持っていること、そしてそのきっかけを与えてくれる物語の存在は、私にとって「自分を回復させる手段」なのです。ずっと張りつめていなくていい。現実でも、架空の物語の中でも、デジタルの空間でも、安心できる場所がひとつでもあれば、それでいいのだと思います。疲れたときは、素直にそこへ戻って、泣いて、笑って、自分を整え直せばいい。泣けることは、弱さではない。むしろ、ちゃんと生きている証拠なのかもしれません。
- 清明 祐子
- マネックスグループ 代表執行役社長CEO/マネックス証券株式会社 取締役社長執行役員
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2001年4月株式会社三和銀行(現 株式会社三菱UFJ銀行)入行、2006年12月に株式会社MKSパートナーズに転じ、2009年2月にマネックス・ハンブレクト株式会社(2017年マネックス証券と統合)入社。2011年6月マネックス・ハンブレクト株式会社代表取締役社長を経て、2013年3月 マネックスグループ執行役員、2016年6月グループ執行役、2019年4月マネックス証券株式会社代表取締役社長に就任。2020年1月グループ代表執行役COO、2021年1月グループ代表執行役COO兼CFOに就任。2021年6月グループ取締役就任、2022年4月グループ取締役兼代表執行役 Co-CEO兼CFO就任、2023年6月より取締役兼代表執行役社長CEO(現任)。2024年1月マネックス証券取締役社長執行役員。