先週末、旧友と金沢を旅しました。三人で歩いたのは、日本三名園のひとつ、兼六園。丁寧に整えられた庭木、絨毯のようにしっとりと広がるコケ、そして静かに流れる水の音。どこを切り取っても、まるで絵画の中を歩いているような心地がします。そんな景色の中に、国内外からの観光客も静かに溶け込んでいて、それぞれが思い思いの時間を過ごしていました。

その美しさを、なんと320円で体験できるという驚き。米ドルで言えば、2ドルちょっと。チップよりも安いなんて…。思わず、「やすっ!」と声に出してしまいました。庭園の維持管理には相当な労力と時間がかかっているはずです。コケ一面を育て整えるには、専門的な知識と日々の手入れが必要。東京でコケを買おうとすれば、小さな一鉢で何千円もするのに、ここではそれが広大に生い茂っています。また、あの松の見事な枝ぶりには、庭園を代々守ってきた人々の、気の遠くなるような年月が込められています。そう考えると、320円という価格は、あまりにも破格です。海外の有名な庭園と比べても、その価格は1/5、いや1/10ということも。日本では庭園が「公共空間」であり、「生活に近い文化財」として、広く開かれていることが多く、だからこそ、誰でも気軽に入れる料金なのかもしれません。しかしながら、その文化的価値や維持コストに鑑み、学生割引や地域住民無料日を設けつつ、観光客向けに価格を見直す余地は十分にあるように感じました。

そして今回の旅でもうひとつ出会った贅沢が、九谷焼です。色鮮やかな五彩の絵付けが特徴の石川の伝統工芸。ギャラリーで、中憲一さんと橋本薫さんの作品に出会い、心を奪われました。器に描かれた絵はすべて手描きで、量産品にはない、どれも一点ものの表情がありました。どちらかを選ぶことができず、二つとも購入。日常の食卓を豊かにしてくれる器に出会えて本当に幸せです。

兼六園と九谷焼。その美しさは決して遠い高みにあるものではありません。むしろ、手を伸ばせば届くところに、静かに、しかし確かな存在感でたたずんでいる。そうした「日常に溶け込んだ美」が、私たちの心を整えてくれるのだと思います。

旅から戻り、当社のオフィスでは、毎年恒例の「ART IN THE OFFICE」の展示が入れ替わる時期。2024年の作品が撤去され、今は真っ白な壁。この空間に、2025年の受賞作品がどんな彩りを加えてくれるのか、楽しみでなりません。日常の中でアートと触れ合える時間が、きっとまた新たな視点をもたらしてくれるでしょう。