150円の円安を批判したトランプ大統領
米ドル/円は1月初めの158円から、4月には139円まで20円近くも下落した。その過程で、トランプ大統領から何度か他国の通貨安を批判する発言が飛び出した。中でも特に大きく報道されたのは3月3日の発言だっただろう。トランプ大統領が、日本や中国の首脳に電話して、「通貨を切り下げ続けることはできない」と伝えたものだ。
この発言が出た時の米ドル/円は150円前後で推移していた(図表参照)。その意味では、150円前後の米ドル/円は、トランプ大統領にとって批判すべき円安と評価された可能性が高いだろう。

こうした中で、通貨安は非関税障壁の1つと位置づけられ、関税交渉のチェックリストの中に入った。そう考えると、米ドル高・円安がこの先150円程度まで戻るようなら、関税交渉で日米合意を目指す上で、日本にとって不利な要因になる可能性があるだろう。では、そうした米ドル高・円安を止めることができるだろうか。
円安を止める手段はあるのか?
円安を止める手段としては円買いの為替介入が考えられるが、それを150円以下の水準で行う可能性はないだろう。もう1つの円安阻止策は日銀による利上げだが、これも5月1日の金融政策決定会合で追加利上げ姿勢を大きく後退させたばかりで、すぐにそれを転換するのは難しそうだ。
1つ考えられるのは、日米ともに自国の輸出を有利にするために通貨安政策を使うといういわゆる「近隣窮乏化政策」への反対で合意すること。そもそも「近隣窮乏化政策」は国際ルール違反としてすでに認識されていることだけに、これはあり得るのではないか。ただし、それにどれだけの強制力を持たせるかとなると国家主権にもかかわることになりかねず、極めて難しい問題となる。そうかと言って、曖昧なままなら、実効力が金融市場に見透かされ逆効果になりかねない懸念もある。
円高歓迎だった日米当局=「米国売り」阻止優先で流れ変わる
4月9日、ベッセント米財務長官は、「日本では円高が進行しているが、これは日本経済の強い成長とインフレ期待上昇の結果だ」と発言していた。この頃までに米ドル安・円高はすでに144円台まで進行していたことを考えると、円高を歓迎していた感じが伝わる発言と言えそうだ。
4月下旬に行われた日米財務相会談について財務省は、「米国から通貨目標を要請されるようなことはなかった」として、米国からの円高圧力を否定したが、上述のベッセント発言などからは、日米の通貨当局ともに円高を好意的に捉えていた可能性は高かったのではないか。
ところが4月中旬から「米国売り」が一段と拡大に向かうと、それに歯止めをかけることが日米当局にとっても最優先課題になったと考えられる。そしてそれが奏功し、「米国売り」は鎮静化されたようになった。
その上で、5月12日の米中関税率引き下げ合意を受けて、米ドル/円も急激に米ドル高・円安へ戻す展開となったわけだが、ここからさらにそれが広がるようなら日米の関税交渉に悪影響を及ぼしかねないという別の懸念も出てきたのではないか。