ほとんどの業種は景気後退局面で株価が下がる
今回は「ディフェンシブ銘柄」について述べます。ディフェンシブ銘柄とは、景気の動向に左右されにくい、業績が安定している業種や銘柄を指します。
株式投資では一般的に、ほとんどの業種、銘柄は景気が後退局面に差しかかると株価が値下がりします。株価形成上、最も影響の大きな企業業績が景気後退期の初期に大きく落ち込むからです。株価はそれに伴って大きく値下がりします。
ところが景気が後退局面に差しかかっても、業績がさほど悪化しない業種が存在します。それがディフェンシブ銘柄です。
ライフライン、医療、食品…生活や命を支えるビジネスはなくならない
私たちが暮らす社会の基盤、生活の基礎的な部分を担っているビジネスがそれに当たります。具体的には電力、ガス、鉄道、通信などのライフライン企業です。
さらに病院や医薬品、介護、看護に関わるビジネスもそうです。景気がどのような状況にあろうとも、人々は病気にかかり介護を必要とするため、それらをケアするビジネスには一定の需要が存在するためです。
食品メーカーや食品スーパーも同様です。景気動向にかかわらず私たちは毎日一定量の食事をし、食料品を購入する必要があります。そうは言っても食品スーパーは景気の波に影響を受け、消費者の購買トレンドを見誤ることもあります。それでもたとえ不景気に直面しても売上げがゼロになることはありません。
ポートフォリオの守備力を高めるために、組み入れを増やす対象となる銘柄
サッカー日本代表が対戦相手の本拠地(アウェー)で戦う時、「ディフェンシブに戦う」と表現されることがあります。アグレッシブに戦って積極的に点を取りに行くよりも、守備を固めて点を取られないようにして、スキあらばカウンター攻撃で効率よく点を取る。守備的に戦うことが「ディフェンシブに戦う」という表現の意味です。
資産運用の世界でもそれと同じです。景気の上昇気流に乗って積極的に値上がり益を狙うよりも、景気の後退局面に差しかかったら守りを重視して、できるだけ値下がりによる損失を回避するようにポートフォリオを組み替える運用法です。そのような状況で通常よりも組み入れを増やす対象となるのが「ディフェンシブ銘柄」です。
機関投資家が重視するβ値=「市場感応度」
機関投資家はここで「ベータ値(β値)」を重視します。
β値とは「市場感応度」とも呼ばれ、個別銘柄の株価が市場全体(日経平均やTOPIX)の動きに対して、どれくらい反応するかを表す値です。ある銘柄のβ値が「1.0」の場合、市場全体が10%上昇すると、この銘柄も10%上昇する傾向があります。反対に市場全体が▲10%下落すると、この銘柄も統計的に▲10%下落しがちです。
β値が「1.0」より大きいほど市場の変化に対する感応度が大きく、反対に「1.0」より小さければ感応度は小さいことになります。β値マイナスの場合、市場全体が下落するとその銘柄は逆に上昇する傾向にあることを示します。
「ディフェンシブ銘柄」とは具体的には「ベータ値(β値)」の小さい銘柄となります。
ベータ値(β値)の小さい銘柄であれば損失は最小限に
目の前に経済の危機的な状況が近づいている、近い将来ほぼ確実に景気は後退局面に入る、と考えた場合、個人投資家であれば保有する株式をすべて売却してオールキャッシュ、全部現金にしておくことが可能です。
しかし投資信託などの機関投資家は、運用することを義務づけられているため、ある程度の株式組入比率は維持していなくてはなりません。個人投資家のように、これからかなりの確率で下げ相場が来ると思っても、規約で定められた最低限は株式を保有しておかなくてはならないのです。
そのような状況でβ値の低い銘柄が選好されます。景気が後退局面に入って日経平均が大幅に下落しても、指数との連動性の小さいβ値の低い銘柄であれば最小限の損失で済むことになります。これがディフェンシブ銘柄ということになります。
β値の小さいディフェンシブ銘柄4選
以下にβ値の小さな銘柄の具体例をご紹介します。(日本経済新聞調べ、β値は3年平均)
ソフトバンク(9434):β値+0.23
ソフトバンクグループの通信会社で国内携帯キャリア「御三家」を形成。モバイルでは価格帯別に「ソフトバンク」「ワイモバイル」「LINEMO」の3つのブランドを展開する。ほかにもブロードバンドサービス、法人向けサービス、ネット金融を手がけ、ネット企業をグループ化するLINEヤフー(4689)は連結子会社。さらにその下に電子決済サービス大手の「PayPay」を有する。そのPayPayが大きく伸びて、2025年3月期は最高益を更新。本業のモバイル事業も堅調で2026年3月期もさらに増益幅が拡大する見通し。配当利回りも高い。

西日本旅客鉄道(JR西日本)(9021):β値+0.11
西日本最大の鉄道会社。北陸、近畿、中国、九州北部の2府16県を営業地盤として、山陽新幹線、北陸新幹線、在来線特急を中心に都市間輸送を行う。2002年に日本旅行を子会社化した。インバウンドに人気の京都・大阪を中心に近畿圏で鉄道利用が伸び、コロナ明けからの国内旅行ブームも継続して山陽・北陸新幹線も堅調。2025年3月期は売上高が+4%増えて1.7兆円に。「大阪・関西万博」がいよいよ開幕し今期も増収は固い。万博後も夢洲(ゆめしま)での大阪IR(統合リゾート)への期待が高まる。

ライオン(4912):β値-0.54
トイレタリー、日用品の大手。特にオーラルヘルスケア分野に強く、歯磨き市場では国内シェア30%でトップ。「トップ」のブランドで知られる洗濯用洗剤でも20%のシェアを有する。「デンターライオン」「ホワイト&ホワイト」「アクロン」「ママレモン」などよく知られた国民的ブランドも多い。上場企業や中堅企業に投資する投資ファンド「ジャパン・アクティベーション・キャピタル(JAC)」は投資案件第1号にライオンを選定した。経営の指南役を得てここからの変貌に期待が寄せられる。

ベルーナ(9997):β値+0.01
カタログ通販大手。ネット通販全盛の時代に、紙のカタログ販売が中高年層のファンをつかむ。中核は「アパレル・雑貨」で売上の35%を占める。衣料品、ファッション雑貨、家具を中心に、2300万人を超える会員のデータを活用した商品開発、効率的な在庫管理が事業を牽引。売上の15%を占める「グルメ」は全国選りすぐりの惣菜、海産物、スイーツ、ワイン、花を届ける。中でもワインは種類の多さとこだわりの品質が好評で、ワインの通販売上シェアで第1位をしばしば獲得。「化粧品健康食品」「ホテル」も好調。
