「米国売り」再燃回避で円高圧力を自制か?
トランプ米大統領はかねてから円安に対する不満を繰り返していた。そうした中で、関税を巡る日米交渉の中に通貨問題も含めることとなったため、この交渉の中での米国からの円高圧力への警戒が強まっていた。
ところが、相互関税が発表されてから間もなく、米国では株・債券・通貨の「トリプル安」が発生、一気に「米国売り」への懸念が拡大した。通貨政策を担当するベッセント米財務長官の周辺からは「米ドル危機」への懸念も漏れ伝わるところとなった。
このように米国からの資金流出への懸念が高まる中で、日本への円高圧力を明確にすることは、資金流出の加速によるコントロール不能の「危険な米ドル安」をもたらしかねない。4月24日の日米財務相会談の前に、ベッセント米財務長官が日本に対して通貨目標を求めることはないと発言したのは、「米国売り」再燃を回避するために、今回の日米会談では円高圧力を自制する判断に至った可能性を感じさせた。
ベッセント長官は「円高が望ましい」と述べたのか
こうした見方は基本的には正しかったのではないか。ただし一部大手新聞は、4月26日付の朝刊トップで、「米『ドル安・円高望む』」と報じた。会談の中で、ベッセント長官が、「米ドル安・円高が望ましい」と述べたとする内容だった。
似たような例が、1993年からクリントン政権が発足して間もないタイミングでもあった。クリントン政権はポスト冷戦後の最重要課題として日米貿易不均衡是正を位置付け、そのために為替調整に動いた。当時の民主党リーダーの1人、フォーリー下院議長は「強い米ドルを望むか」という記者団からの質問に対して「強い円を望む」と答えた。そして、初の日米首脳会談終了後の記者会見で、クリントン大統領は「日米貿易不均衡是正に第1に有効なのは円高」と発言した。
米ドル安への誘導ではなく、あくまで「強い円」、円高を要求するとしたこれらのワード・センスは、ベッセント長官が述べたとされる「米ドル安・円高が望ましい」との発言に重なる感じがある。
円高圧力の自制が「真相」なら市場はどう受け止めるか
トランプ政権が米貿易赤字削減のために、日本に対して円安の是正、「強い円」を期待してきたことは事実ではないか。ただし「米国売り」リスクが急拡大したことで、今回の会談ではそれを極力自制したのもやはり事実だったのではないか。そうした中での今回のベッセント長官の発言は、我慢のギリギリのところだったようにも感じられる。
米国は円高を求めているが、「米国売り」再燃を回避するためにそれを自制していることが仮に「真相」だとして、それをマーケットがどのように受け止めるか、注目されるところだろう。