2014年4月頃のことでした。当時の日本では、ビットコインはまだ「謎の電子マネー」程度の認識しかなく、Mt.Gox(マウントゴックス)社の破綻ニュースが報じられ始めた頃でした。多くの人がビットコインを「怪しいもの」と警戒する中、私たちはこの未知の領域に足を踏み入れようとしていました。振り返れば、純粋な好奇心と「次の大きな波になるかもしれない」という直感が、私たちを動かしていたのだと思います。
「私たち」と言っても、当時はほぼ、創業メンバーの和田晃一良と私のふたりだけ。和田と私は「次にどんな事業を手がけるべきか」を毎日のように議論していました。
当時、私たちは「STORYS.JP」というサービスを開発・運営していました。実名で自分の人生の物語を投稿できるサービスです。立ち上げから2年間継続し、一定の手応えを感じていましたが、スタートアップとしての急成長には限界があるのではないかと感じ始めていました。次の一手が必要だと考えていたのです。
当時を振り返ると、和田は大学を休学中、私は会社員として働いていました。会社員として働きながら、朝方の時間を使って新事業を模索する日々。私が、平日は9時から20時まで勤務していたため、朝6時から8時半に2人で毎日顔を合わせ、新しい事業のアイデアを練っていました。
そんなある日、和田が「ビットコインというものがアメリカで流行っているらしい」と話を持ちかけてきました。私はそのとき、ビットコインという言葉を初めて耳にしました。詳細はよく分からなかったものの、調べながら、ひとまず試しにビットコインを使ったサービスをつくってみようという話になりました。
「僕は、これから1ヶ月間、開発に集中します」
和田はそう言い、そのまま1ヶ月間、音沙汰がなくなりました。彼は一人で設計と開発を行いました。彼は一人でほぼ全てのコードを書きました。私はその間、ビットコインとは一体何なのかを知るために、本を買って読みあさる日々を送りました。
3週間ほど経ったある日、和田から突然連絡がありました。
「来週リリースするので、大塚さん、プレスリリース書いてもらえませんか?」
私は、見たことも触ったこともないそのサービスのプレスリリース文を書くことになりました。ここから今日に至る全てが始まりました。