今日はトランプ氏の二期目初の議会演説が注目を集めました。米国では、立法や予算を審議する議会と、国家元首である大統領とで明確に役割が分担されていて、大統領が議会で演説するのは年一回のみ。その重要な機会が今日でした。
特に強調された政策は、これまでの発言通り、外交と関税、政府業務の効率化、移民政策の方向性等で、大枠としてはサプライズはありませんでした。
その中で、若干注目されたのは、トランプ氏が「関税は多少の混乱を招くかもしれない。しかしそれは、大したことではない」と発言したことです。このところの米国株の下落を受けたものと思われます。ごく当たり前の内容ですが、貴重な年1回の演説に盛り込まざるを得ないくらい株価下落を気にしている、ということかもしれないと思いました。
トランプ氏が前回の任期中に経験した最大の株価の暴落は2020年のコロナショックでした。あの時は、トランプ氏の責めに帰する要因ではなかったですが、今回の下落は大いにトランプ氏の発言に左右された動きです。
「アメリカを再び豊かにする」というスローガン下のトランプ氏が、最も即時性があり明確な豊かさの指標である株価を無視することは決してないでしょう。従って、今後出てくるであろう減税等の景気刺激策でも株価が持ち直さないようなら、関税措置に修正を加えたり、金融政策に働きかけるなどして、影響の中和を図る可能性もあるのでは、と思います。
先日、ある米国の元政府高官の講演を聞いたところ、「トランプ氏は不確実性の生成装置(uncertainty generator)だ」と発言していました。もし現在の市場の下落が、トランプ氏が生成した短期的な不確実性のせいであり、米国の中長期的な強さは変わらないのであれば、現在の米国市場の動揺は投資の好機であるかもしれません。次のテーマである金融緩和や、減税の議論などに注目してエントリーポイントを探りたいところです。
- 大槻 奈那
- ピクテ・ジャパン株式会社 シニアフェロー
-
内外の金融機関、格付機関にて金融に関する調査研究に従事。Institutional Investors誌によるグローバル・アナリストランキングの銀行部門にて2014年第一位を始め上位。政府のデジタル臨時行政調査会、財政制度等審議会委員、規制改革推進会議議長、中小企業庁金融小委員会委員、ロンドン証券取引所グループ(LSEG)のアドバイザー等を勤める。日本経済新聞「十字路」、日経ヴェリタス「プロの羅針盤」、ロイター為替フォーラム等で連載。日経Think!エキスパート・コメンテーター、テレビ東京「モーニングサテライト」で解説。名古屋商科大学大学院 マネジメント研究科教授 東京大学文学部卒、ロンドンビジネススクールMBA、一橋大学博士(経営学)
著書:
『本当にわかる債券と金利』(日本実業出版社)、
『1000円からできるお金のふやし方』 (ワニブックス)
著書名のリンク先はアマゾン(Amazon)等、マネックス以外の他社のウェブサイトを表示します。