円安の理由は金利差だけではない!?
2024年7月にかけて161円まで広がった米ドル高・円安は、日米金利差米ドル優位が大きく縮小に向かう中で起こったものだった(図表1参照)。これについて当時、「円安は金利差だけが理由ではないことを示した結果」との解説もあった。円安の背景には新NISAによる海外への資金流出の拡大や日本の国際収支の変化などもあり、金利差が縮小しても円安の流れは変わらないという意味だった。
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ところが、米ドル高・円安が161円で終了すると、その後ほんの1ヶ月で約20円も急激に米ドル安・円高に戻す動きが起こった。そしてその米ドル安・円高が一巡すると、9月後半から再開した米ドル高・円安は改めて日米金利差と連動し、最近に至っている(図表2参照)。
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短期売買を行う投機筋の米ドル買い・円売り急増が「特殊な円安」を正当化した
以上のように見ると、金利差から大きくかい離した米ドル高・円安が広がった2024年5~7月にかけての約2ヶ月間が「特殊な局面」だったということになるだろう。では、金利差米ドル優位縮小を尻目に広がったような「特殊な円安」を正当化したのは、新NISAや国際収支要因だったのか。
そうではなく、短期売買を行う投機筋の米ドル買い・円売り急増こそが「特殊な円安」を正当化した主役だったのではないか。だからこそ、投機筋の米ドル買い・円売りポジションが急縮小に向かうと、急激な米ドル安・円高が起こったのだろう(図表3参照)。
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改めて振り返ってみると、米ドル高・円安の背景は、基本的に日米金利差米ドル優位・円劣位の拡大である。それで説明できない2024年5~7月の米ドル高・円安は、金利差米ドル優位・円劣位縮小に逆行して投機筋が米ドル買い・円売り拡大に動いた結果という、「異常」と言っても良さそうな特殊なケースだったのだろう。
米景気後退等で金利差縮小なら円高へ
円安の背景は基本的に日米金利差米ドル優位・円劣位拡大なら、金利差米ドル優位・円劣位が、米景気の減速などにより大きく縮小に向かう局面では、基本的に米ドル安・円高に戻るだろう。つまり、「円安の流れは変わらない」というのは誤解の可能性があるのではないか。
その上で確認したいのは、重要な変化とは「円安が止まらない」ことではなく、「(かつてほど)円高にならない」ことだ。その内容について、以下で具体的に確認してみる。
1米ドル=100円割れという「超円高」が再来する可能性は低い
米ドル/円の5年MA(移動平均線)かい離率を見ると、米ドル安・円高に振れた場合の、5年MAを下回る割合が長い時間を減る中で小幅化するという変化が続いてきたことが確認できる(図表4参照)。これこそ、日米の経済構造変化の円相場への影響ではないか。
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米ドル安・円高局面では、かつて5年MAを3~4割も下回った米ドル/円だったが、この10年では1割も下回らなかった。足元の5年MAは130円程度であり、米ドル安・円高に向かってもそれを大きく割れない程度にとどまるだろう。そうして米景気が後退局面を迎えることにより、日米金利差米ドル優位縮小でも米ドル安・円高は120円に向かう程度がせいぜいであり、1米ドル=100円割れという「超円高」が再来する可能性は低いと考える。