政権1期目とは異なる米ドル高・円安

トランプ政権1期目には起こらなかった「行き過ぎた米ドル高・円安」

2017~2020年のトランプ政権1期目においては、米国の通貨当局が、米ドル高・円安の阻止・是正のため為替市場への米ドル売り介入など具体的に動くことはなかった。ただ、それはその必要がなかったということだったのだろう。

トランプ政権1期目における米ドル高・円安のピークは、政権が正式にスタートする前に起こった「トランプ・ラリー」で記録した118円だった。これは、5年MA(移動平均線)かい離率で見るとプラス13%程度だった(図表1参照)。

【図表1】米ドル/円の5年MAかい離率(1990年~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

日本の通貨当局の場合でも、米ドル/円の5年MAかい離率が±2割以上に拡大すると、為替介入を行う確率がかなり高かった。これは、同かい離率が±2割以上に拡大した動きが「行き過ぎた相場」の目安になってきた可能性を感じさせる。以上を参考にすると、トランプ政権1期目には、行き過ぎた米ドル高・円安は起こらなかったため、それを阻止・是正するための具体策をとる必要がなかったということではないか。

今回は懸念される「行き過ぎた米ドル高・円安」

では、今回はどうか。米ドル/円の5年MAかい離率は足下でプラス2割以上に拡大している。2024年7月に161円まで米ドル高・円安となったところでは、5年MAかい離率はプラス3割程度に拡大した。要するに、足下において150円を大きく上回る米ドル高・円安は、トランプ政権1期目には経験しなかった「行き過ぎた米ドル高・円安」の懸念がある。

それは、トランプ氏が選挙期間中に、「製造業にとって大惨事」として、バイデン政権の無策を批判した「行き過ぎた米ドル高・円安」ということになることから、このままその状況が政権スタート後も続いた場合、トランプ氏が円安阻止・是正で具体的に行動するかどうかは注目されるところとなるのではないか。

一方で、ユーロ/米ドルの5年MAかい離率は、足下でマイナス4%程度となっており、こちらは「行き過ぎたユーロ安・米ドル高」ということではなく、ほぼニュートラルな状況と言ってよいだろう(図表2参照)。つまり最近の状況は、「行き過ぎた米ドル高」ではなく、主要通貨に対する円の独歩安、「行き過ぎた円安」だ。その意味では、行き過ぎた米ドル高の是正がテーマになった1985年のプラザ合意のケースとは全く違う。

【図表2】ユーロ/米ドルの5年MAかい離率(1980年~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

1985年のプラザ合意の前に、当時の米ドル/独マルクで換算したユーロ/米ドルの5年MAかい離率はマイナス30%以上に拡大していた。まさに「行き過ぎた米ドル高・独マルク安」であり、マルク以外の主要通貨に対しても「行き過ぎた米ドル高」だったことから、それを是正するための協調米ドル売り介入となった。

1980年以降、このプラザ合意以外でユーロ/米ドルの5年MAかい離率がマイナス2割以上に拡大したのは2000年だったが、この局面でもユーロ安阻止の協調米ドル売り・ユーロ買い介入が行われた。

すでに20年以上も、欧米の通貨当局は為替介入を行っていないが、それはユーロ/米ドルが「行き過ぎた動き」にならなかった面もあったと考えられる。しかし、5年MAかい離率で見ると、米ドル高・円安はトランプ氏が「大惨事」という「行き過ぎた動き」の可能性がある。それが続いた場合、トランプ氏がどう対応するのか。「予測不能」の特徴の人物ながら、気になるところではある。