160円の円安か140円の円高か?

トランプ氏が初めて大統領選挙に挑戦、下馬評を覆す「まさかの勝利」となった2016年11月の米大統領選挙において、選挙の結果が出た後から米ドル/円は1ヶ月程度で101円から118円まで20円近い一段高に向かう「トランプ・ラリー」が起こった(図表1参照)。

【図表1】米ドル/円の推移(2016年1月~2017年6月)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

しかし、選挙が決着した後に、米ドル/円が一方向に大きく動いたのは、この「トランプ・ラリー」が特別だったわけではなかった。むしろ大統領選挙が決着した後に一方向に大きく動くのはいつも通りの結果だったのである。

なぜ大統領選挙後に米ドル/円が一方向に大きく動くかを論理的に説明するのは難しい。それでも頻繁に繰り返されるパターンを「アノマリー」と呼び、米ドル/円の「米大統領選挙アノマリー」は、トランプ・ラリーが起こった2016年の大統領選挙の前の選挙、2012年の場合にも見られた現象だった。

選挙前、かなり長い間5~6円程度の狭いレンジで方向感のない展開が続いていた米ドル/円は、オバマ再選で選挙が決着した後から一段高へ向かう展開となった(図表2参照)。ただ、この時の米ドル/円一段高は、米大統領選挙の結果が直接影響した感じではなく、直接のきっかけは日本の政権交代だった。このため、この新たな米ドル高・円安の始まりは、一般的には「アベノミクス円安」と記憶されているだろう。

【図表2】米ドル/円の推移(2012年1月~2013年6月)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

では、前回2020年はどうだったか。2020年11月の前回の米大統領選挙は、投票日から民主党のバイデン候補の勝利が確定するまで5日程度も要し、なおかつそれを現職のトランプ大統領が認めないといった異例の状況が続いた。

このため、いつが選挙の決着したタイミングとするかは微妙だろう。ただし、バイデン新大統領誕生が浸透していく中で、米ドル/円は大統領選挙の投票日から約2ヶ月後の2021年1月から大きく上昇に向かい始めた(図表3参照)。それは結果的には、その後「歴史的円安」と呼ばれる米ドル高・円安の始まりだった。

【図表3】米ドル/円の推移(2020年~2021年)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

以上、米大統領選挙が決着した後の米ドル/円は、一方向に大きく動きやすかったことについて見てきた。今回の場合は、トランプ氏が勝利した場合は米ドル買いが強まり160円を目指す、逆にトランプ氏が敗北となった場合は米ドル売りが強まるという見方が多いのではないか。

一本調子の円安が展開した過去2年と異なり、2024年は夏に急激な円高が起こったことで、短期売買を行う投機筋も利益を上げにくかった可能性がある。そのため、この大統領選挙を受けた相場を、年内最後の勝負所と位置づけているのではないか。そのような投機筋の思惑がさらに値動きを荒くする可能性にも注意が必要だろう。