2002、2007年との類似

米ドル/円は7月の161円から、9月には一時140円割れまで下落したが、その中で過去1年の平均値である52週MAを最大6%以上と大きく下回った。このように52週MAを逆方向に大きく、そして長くブレークする動きは、経験的には一時的な動きではなく、複数年続くトレンドが転換した可能性が高い。つまり、161円で米ドル高・円安トレンドは終了し、新たに複数年続く米ドル安・円高トレンドが展開している可能性が高いと考えられた。

ただここに来て、米ドル/円は足下で150円程度の52週MA近辺まで戻ってきた。では、今回52週MAとの関係が示唆した米ドル安・円高へのトレンド転換の可能性は間違い、「ダマシ」だったのか。

52週MAを大きく下回り、それが米ドル安・円高へのトレンド転換だったケースとして、2002~2005年と2007~2011年に展開した米ドル安・円高トレンドがあった。そしてこの2つのケースとも、52週MAを大きく割り込んだ最初の急落が一巡した後は、米ドル/円は今回のように52週MA近辺まで戻っていた(図表1参照)。

【図表1】米ドル/円と52週MA(2000年~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券作成

2002年から始まった米ドル安・円高トレンドにおいて、米ドル/円は最初に52週MAを最大7%以上下回るまで下落したが、その後反発に転じるとほぼ52週MA近辺まで戻すところとなった。ただ米ドル/円の反発はここで終わると、改めて下落拡大に向かった(図表2参照)。

【図表2】米ドル/円と52週MA(2000年~2009年)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券作成

2007年から始まった米ドル安・円高トレンドにおいても、最初に米ドル/円は52週MAを最大5%近く下回ったが、その後反発に転じると一時は52週MAまで1%に迫るまで戻すところとなった。ただ米ドル/円の反発はそこで一巡し、その後は改めて一段安に向かった。

以上のように見ると、米ドル/円が52週MAを大きく割り込んだ後に、52週MA近辺まで戻すと言う最近の値動きは、過去の米ドル安・円高トレンドへの転換局面でも同じように見られたものだった。

似たようなプライス・パターンになった背景

今回を含めたこの3つのケースにおいて、米ドル/円の急落と反発の理由はそれぞれ違うものだったのだろう。それにもかかわらず似たようなプライス・パターンになった背景として、以下のようなことが考えられないだろうか。

米ドル安・円高トレンドへ転換したケースでも、直後は「まだ円安は終わったわけではなく一時的な円高に過ぎない」、「否、すでに円高トレンドに変わった」という見方が交錯した状況が続いている可能性が高いだろう。そもそも長く円安が続いた場合ほど、すぐに皆が一斉に「もう円高に変わった」と簡単にはならなそうだ。そうしたことが、円高が一息ついた後、相応に大きく円安に戻す基本的に共通した背景なのではないか。

2002年と2007年のケースは、米ドル/円の反発が52週MA近辺で一巡すると、米ドル安・円高再燃に向かった。結果的に見ると、52週MAを大きく、長く割り込み、米ドル安・円高へのトレンド転換を示唆した意味は大きかった。そうした中で、徐々に「すでに円高の流れに変わった」ことがより多くの人に理解されるようになっていった。

では今回の場合も、2002年や2007年と同じなのか、それとも今回は違うのか。今、目の当たりにしている52週MA近辺までの戻りは、米ドル安・円高トレンドへの転換を試す、ある意味では最後の正念場なのかもしれない。