◆国際通貨基金(IMF)の予想によればベネズエラのインフレ率が年末までに100万%に達するらしい。先週、朝のテレビ番組にゲスト出演した時にこのニュースが取り上げられた。一緒に出演していた、もうひとりのゲスト、商品アナリストのNさんは、「100円のコーラが、1年後には1億円になるということです」とコメントしたが、間違いであった。100万倍になるなら、100円×1,000,000=1億円だが、「100万倍になる」のと「インフレ率が100万%」とでは意味が異なる。

◆Nさんの名誉のために書き加えるが、なんかおかしい、と初めに気付いたのもNさんであり、「1年後には1億円になる」と言われて、僕も含めたその場にいた全員がなにもおかしいと感じなかったのである。それだけケタが大きなインフレは直観で把握しにくいということだ。いや、ケタの大きさだけでない。有名な「バットとボール問題」というのがある。

◆「バットとボールの値段は合わせて100円です。バットはボールより90円高い。ボールの値段はいくらですか?」 とっさに答えを求められると、つい「10円」と言ってしまいがちだが、それだとバットの値段が100円になって合計で110円だから整合しない。正解はボール5円、バット95円である。直観は往々にして間違いやすいが人間は直観に引きずられてしまうものである。

◆さてインフレ率が100万%だと100円のコーラはいくらになるか。インフレ率が年率10%なら1年後の物価は、1+10/100=1+0.1=1.1倍になる。これが1,000,000%だと、1+1,000,000/100=1+10,000=10,001倍になるから100円のコーラは100万100円になる、というのが正解である。オンエア中、Nさんとふたりで紙に式を書いて確かめた。数学的センスがなくて、誠にお恥ずかしい次第である。

◆「今日の経済視点」は番組のエンディングでゲストがキーワードをフリップに書いて示すコーナーだ。僕が書いた言葉は、「インフレはむずかしい」。ハイパーインフレなどになると、計算がむずかしくなって経済が混乱する。だから貨幣価値というのは安定しているのがいちばんである、と述べた。しかし、一方で100円のコーラが10年も20年もずっと同じ100円であるというのも問題である。インフレは厄介だが、それ以上に一度デフレに陥るとそこからの脱却は非常に困難であるということを我々はこの数十年、身をもって体験してきた。物価上昇率の低迷、この難問にどのような解があるか。今日から日銀の金融政策決定会合が始まる。