AI搭載のiPhoneを発表したアップル、買い替え需要を喚起

米アップル[AAPL]が6月10日、米カリフォルニア州の本社で開発者向けの年次イベント「WWDC」を開催し、基調講演で生成AI(人工知能)機能である「Apple Intelligence(アップル・インテリジェンス)」を発表した。アップルはこれまでスマートフォン(iPhone)などで写真の画質を向上させる処理などをAIで行っていたが、生成AIにはほとんど対応してこなかった。新しい基盤モデルは自社で開発し、音声アシスタント「Siri」などの機能ではオープンAI社の対話型AI「Chat GPT」も活用できるようになっている。

上記の発表により、米アップルが再び株式市場で存在感を高めている。iPhoneに生成AIを搭載する仕組みについての評価が高く、発表直後には一時的とはいえ、時価総額でマイクロソフト[MSFT]を抜いて首位に躍り出た。生成AI搭載のiPhoneが発売されれば、買い替えが進んで収益に寄与するとの見方が広がり、株価の先高期待が浮上している。

iPhoneは中国での販売不振や、買い替え需要を促すような新機能に乏しく、アップル関連株は、ここ数年は株式市場のテーマになりにくかった。しかし今回、久々に関連銘柄に注目が集まってきている模様だ。

iPhoneに「アップル・インテリジェンス」が搭載された場合、AIアシスタントとしてチャット形式や音声、テキストでのやり取り、そのままアプリでの操作が可能になる。さらにテキストや画像の生成といった生成機能も使えるようになる。「Siri」については発表会のデモで、メッセージアプリで友人から送られてきた住所などの情報を認識して「この住所を連絡先に追加して」と話しかければアクションを実行する。

また、「この前撮った写真を友人にメッセージで送って」など、違うアプリを操作するアクションに対応したり、デバイス上にある情報からパーソナルな質問にも答えてくれたりするとのこと。アナリストによれば、メールをチェックすると緊急性が高いと見られるものが優先的に表示され、学習が進むと全文ではなく要約したものを確認できるようになるという。原稿を執筆したら文書を校正し、プレゼン資料の作成などにも展開できる。電話では音声を録音し、テキストに要約を書き起こすことも可能になる。

アップルは「アップル・インテリジェンス」を搭載したiPhone、iPadなどを2024年秋に発売する予定だが、報道によると英語版のみで、他言語対応は2025年以降になる。

国内大手証券では「iPhoneの買い替えサイクルはおおむね3年間周期で、前回は2021年であった。2024年度版は生成AIにも対応する機種になるので買い替え促進が期待できる」と推測している。中華圏では2023年にファーウェイがスマホに再参入したことでシェアを奪われていたが、この巻き返しも予想されるとしている。

日本でも、アップルのサプライヤー企業への収益寄与が久々に期待される局面になっている。そこで、今回はアップルに関連した銘柄をピックアップする。

アップルの新機能発売で収益寄与が期待される関連銘柄6選

村田製作所(6981)

電子部品大手。積層セラミックコンデンサー(MLCC)で世界首位。材料からの一貫生産に強みがある。MLCCは電極を多数積層することで小型でも大きな静電容量を実現できる特性から、ノイズ除去や電源電圧の平滑化、フィルターなど様々な回路で使用される。スマホが高性能になればなるほど、MLCCの搭載数も比例して増加する。通信モジュールやコネクターなども供給しているとみられる。

【図表1】週足チャート(移動平均線 緑色:13週、橙色:26週)
出所:マネックス証券ウェブサイト(2024年7月4日時点)

TDK(6762)

電子部品大手。積層セラミックコンデンサーの大手。子会社の香港企業ATLはiPhoneの電池サプライヤーで、2005年にTDKが買収した。韓国サムスン電子の「ギャラクシー」向けにも電池を供給している。TDKが設備投資や生産技術でバックアップしている。

生成AIの拡大ではデータセンター向けにハードディスクドライブ(HDD)ヘッドなどの需要も拡大することが期待される他、インダクタ(コイル)の需要も伸びる。インダクタは電流に対してコイルが示す特性を利用して、電源回路や信号回路、高周波回路などで重要な役割を担う。TDKの斎藤社長は外資系通信社とのインタビューで、「AIの進化は業績に非常に大きなインパクトがある」と述べている。

また、太陽誘電(6976)もMLCCの世界大手で、アップルのサプライヤーです。6月17日付の日本経済新聞で、太陽誘電の佐瀬社長は「AIサーバーではMLCCの搭載数がこれまでの2倍になるとみて、マレーシアに新工場棟を建てるなど生産体制を整え、需要拡大に備える」とコメントしている。

【図表2】週足チャート(移動平均線 緑色:13週、橙色:26週)
出所:マネックス証券ウェブサイト(2024年7月4日時点)

ソニーグループ(6758)

iPhone向けに画像センサーを供給。TSMC(台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング)[TSM]にとって日本初となる熊本工場は、TSMCが過半を出資し、ソニーやデンソーが少額出資する子会社JASMが運営する。

TSMCはアップルの要請を受けて熊本への進出を決めたとされる。アップルのティム・クックCEOが2022年12月に熊本を訪れたのは、工場の進捗状況をチェックするためであったとか。アップル向けに供給される、ソニーの画像センサーを受託生産するのが熊本工場。熊本第2工場もソニー専用との報道もある。

【図表3】週足チャート(移動平均線 緑色:13週、橙色:26週)
出所:マネックス証券ウェブサイト(2024年7月4日時点)

デクセリアルズ(4980)

旧ソニーケミカル。パネル用接合剤である「異方性導電膜」、モジュールとカバーガラスの間に充填する「光学弾性樹脂」が収益の2本柱。異方性導電膜はスマホのタッチパネルのプラスチック基板や、薄型化、軽量化が求められるユニット間をつなぐフレキシブル基板の配線の実装などに使われる。

【図表4】週足チャート(移動平均線 緑色:13週、橙色:26週)
出所:マネックス証券ウェブサイト(2024年7月4日時点)

ヒロセ電機(6806)

コネクターが主力の電子部品メーカー。コネクターはスマホなどの電子機器と外部機器の接続や、機器内部のプリント基板など回路同士の接続に欠かせない部品。高周波信号をつなぐマイクロコネクターに強みがある。

【図表5】週足チャート(移動平均線 緑色:13週、橙色:26週)
出所:マネックス証券ウェブサイト(2024年7月4日時点)

アルプスアルパイン(6770)

電子部品大手。スマホ向けカメラアクチュエーターをiPhone向けに供給。スマホに搭載される小型カメラの自動焦点合わせ(オートフォーカス)や手振れ補正を行うための装置になる。

【図表6】週足チャート(移動平均線 緑色:13週、橙色:26週)
出所:マネックス証券ウェブサイト(2024年7月4日時点)