核融合発電の実用化に向け新法策定の動き
政府は次世代技術である核融合発電の実証開始時期を早めるため、技術開発や人材育成に向けた新法を作る方針だ。6月にもまとめる経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)に実証時期を明記する方向と報じられている。
核融合発電とは、1億度でプラズマ化させた重水素と三重水素をぶつけて核融合反応を起こし、そこで生まれる熱エネルギーを利用して発電する仕組みのこと。また、核融合とは例えば水素のような軽い原子核同士が高温でぶつかった際に、ヘリウムなどのより重い原子核に変化する現象のことを指す。地球を照らし続ける「太陽」ではこの核融合が絶えず発生している。太陽は47億年以上、熱や光を生み出し続けている。これを人工的に行おうとしているのが核融合発電だ。
原子力発電と似ているが、原子力発電はウランのような重い原子核を2つの軽い原子核に「分裂」させることで熱エネルギーを生み出す。原子炉の中では絶えず核分裂反応が起こっているため、暴走しないように制御装置で常にコントロールする必要がある。制御に失敗すると爆発事故に繋がる危険性がある。
これに対して核融合発電は何らかの衝撃でプラズマを維持ができなくなれば核融合自体が止まるため、安全性が高い。核のゴミを出さないというメリットもある。また、核融合発電は投入したエネルギー以上のエネルギーを生み出すことで、究極の発電と言われる。原発同様に、CO2も発生しない。また、燃料は海水中にあり、ほぼ無尽蔵である。燃料1グラムで石油8トン分のエネルギーを作ることができるとの論文もある。一方で、実用化には技術的に超えなければならない壁があり、これをクリアするには膨大な資金も必要となる。
核融合発電を有効化させる2つの方法
日本のように発電資源に乏しい国にとって、核融合発電は「夢の発電」とも言える。日本は脱炭素電源の確保に遅れている一方で、AIやデータセンターの普及で電力需要は増加の一途をたどっている。クリーンで安全な電力を確保するためにも、核融合発電の実用化を急ぐ必要がある。
核融合には大きく分けて2つの方法がある。超高温のプラズマを磁場で閉じ込める「トカマク型」(磁場閉じ込め方式)と、燃料をレーザーで照射し圧縮することで核融合反応を起こす「レーザー型」だ。
トカマク型
トカマク型の代表例が国際熱核融合炉(ITER=イーター)で、人類初の核融合実験炉を実現しようする超大型国際プロジェクトである。当初2025年の運転開始を目指し、日本、欧州、米国、ロシア、韓国、中国、インドの7極により進められている。実験炉の建設地はフランスで、日本では量子科学技術研究開発機構が国内機関に指定されている。ただ、部材不足などの影響で2025年の稼働予定は数年遅れる見込みとされている。国内では京都フュージョニアリングがトカマク型の核融合に使う加熱システムなどを開発している。
レーザー型
レーザー型では米ローレンス・リバモア研究所が先行している。リバモア研究所は世界で唯一、核融合でエネルギーの純増に成功している。2022年に世界で初めて投入量を上回るエネルギーを取り出す「エネルギーゲイン(純増)」を達成した。そして、2023年には投入量の約1.9倍のエネルギーを発生させたという。日本では大阪大学発のスタートアップ「EX-Fusion(エクスフュージョン)」がレーザー型での実用化を目指している。
産学官が協同し、政府の後押しも本格化
政府の後押しも本格化してきている。内閣府が2024年3月、核融合の実現を目指し、約50社が参加する「フュージョンエネルギー産業協議会(J-Fusion)」を設立した。会長には京都フュージョニアリングの小西哲之社長が就任。理事には三菱重工業、IHI、古河電気工業、日揮、INPEXなどの名前が並ぶ。産学官の有志が一堂に集まり、サプライチェーンの構築などを目指す。政府は2023年4月に国家戦略である「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」をまとめた。J-Fusion設立もその一環だが、2024年度には炉型にこだわらない資金支援ムーンショット型研究開発制度の公募を始め、開発を支援する。そこで、今回は核融合発電に関連した注目株を紹介する。
核融合発電への取り組みが期待される有望関連株5選
古河電気工業(5801)
2024年1月に英トカマクエナジー社に1000万ポンドの出資契約を締結し、商用核融合エネルギーの推進に向けてパートナーシップを強化する。両社は2023年1月にも、古河電気興業がトカマクエナジー社に核融合炉の建設に必要な大量の高温超電導線材をトカマクエナジー社に供給すると発表している。
トカマクエナジー社は商業核融合エネルギー開発企業。トカマクエナジー型は核融合炉の実現に向けた技術の1つで、超高温のプラズマを閉じ込める方式になり、ITERでも採用されている。トカマクエナジー社は開発で先行している。
フジクラ(5803)
電線大手。核融合発電を目指す米スタートアップのコモンウェルス・フュージョン・システム社にレアアース系高温超電導材を納入している。2024年5月には核融合発電関連の需要増に対応し、比較的高い温度で超電導を実現できる高温超電導線材の生産能力を引き上げるとの報道があった。線材はプラズマを強力な磁場で閉じ込めるコイルとして利用されるという。
三井金属鉱業(5706)
ヘリカル(らせん)型(磁場閉じ込め方式の一種)核融合炉の開発を進めるスタートアップHelical Fusion(ヘリカル フュージョン)に2023年4月に出資、同社ビジネスとのシナジーを狙う。ヘリカル社の社長はJ-Fusionの副会長を務めており、初号機の完成は2034年を目指している。
東洋炭素(5310)
ITER向けに「ダイバータ用コンポジット材」を供給した実績あり。ダイバータとは核融合炉を構成する機器の1つで、粒子排気、熱の除去、プラズマ封じ込め改善の機能を担う。コンポジット材は炉壁に用いられる。また、京都フュージョニアリングに出資(ファンド経由を含む)している。他にはINPEX(1605)、電源開発(9513)、三井物産(8031)、三菱商事(8058)、日揮ホールディングス(1963)、関西電力(9503)、三井不動産(8801)、フジクラ(5803)なども出資者に含まれる。
住友商事(8053)
2022年7月に核融合発電を開発する米TAE Technologiesに出資。出資額は非公表だが数10億円規模と報道されており、素材の開発などで協力している。事業面でも提携し、日本を含むアジアで炉の耐久性を高める構造材などを探す他、発電以外の用途開発も検討しているという。