◆コインを投げて、10回連続で表が出た。11回目に表が出る確率は50%より大きいか小さいか?答えは、やはり50%である。コインは、それまで 10回連続で表が出たということを覚えていないからである。これを「独立試行」という。過去の結果に影響を受けない試行のことである。
◆コイン投げで表が出る確率は1/2。サイコロで1の目が出る確率は1/6。10回や20回、コインを投げたり、サイコロを振ったりしても、確率通 りに表が出たり、1の目が出たりしないことはじゅうぶんあり得る。しかし、すごくたくさん投げたり振ったりすると、それらの確率は1/2や1/6になる。 独立試行を増やすと真の確率の値に近くなる。これを「大数の法則」という。しかし、何回、試行を増やしても真の確率にならないケースがある。コインやサイ コロが歪んでいる場合だ。
◆昨年の今日3月4日、大阪取引所で午前11時過ぎ、先物とオプションの売買が一時的に中断された。実は一昨年の3月4日にも売買が中断された経緯 がある。しかも時間も同じ午前11時前後であった。一昨年はデリバティブ取引システム「J-GATE」の障害が原因だったが、昨年の原因はシステム障害で はなくオペレーションミスだという。原因は違えど、2年連続、同じ日、同じ時間に取引が中断されたのである。
◆足元、騰勢を強めている日本株相場。買いの主体は外国人だが、先物での買い越しが目立つ。2月第3週の投資部門別売買状況によると、外国人投資家 は日経平均先物とTOPIX先物で合わせて9132億円買い越した。この規模は2014年11月第1週に1兆3637億円買い越して以来の規模となる。
◆外国人投資家による先物ポジションが巨額に積み上がるなか、先物・オプションの特別清算指数(SQ)算出を来週13日に控え、市場では警戒感が高 まっている(しかも13日は金曜日)。そこに加えて、3月4日は2年連続でデリバティブ取引が中断されたという「前科」がある。米国市場でナスダック指数 が5000の大台を回復、ドル円相場が120円台をつけて戻ってきても、昨日の日本株相場は上値が重く、日経平均は小反落となった。その背景には2年連続 で取引中断の「前科」を嫌気したところも実はあったのではないか。
◆二度あることはなんとやら、である。大阪取引所のシステムには「2年連続で取引を中断した」という記憶はないから、独立試行とは反対の意味で注意 が必要だ。あり得ないと思うが、万が一トラブルがまた起こった場合、それは大阪取引所が投げるサイコロがおかしいということである。どんな博打であっても 胴元が振るサイコロに歪みがあるのは決して許されない。
マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆