◆ゲームが嫌いである。電車のなかで、スマホでゲームをしている、いい歳をしたサラリーマンらしきひとを見かけると、この国の将来は大丈夫かと思っ てしまう。だが、かく言う我が娘も任天堂の3DSのゲームにはまっている。大ヒットしている「妖怪ウォッチ」だ。しかし、このゲームは許せる。感心すると ころが多くあるからだ。

◆例えば、妖怪とのバトル(対戦)。一般に、この手のゲームでバトルは敵を倒すことが目的だが、「妖怪ウォッチ」ではバトルに勝って、相手を「友だ ち」として取り込むことが目的である。弱い妖怪相手に強い手駒をぶつけると相手を叩き過ぎて、友だちになってくれない。弱い相手にはこちらも弱いのを当て る。そうすればちょっとの攻撃で済むから、倒した妖怪も友だちなってくれる。弱い相手には手加減する、必要以上にダメージを与えない、という子供同士の喧 嘩のルールをちゃんと踏まえているのである。

◆川崎市で中学1年の男の子が惨殺されるという痛ましい事件が起きた。喧嘩や暴力を通り越して殺人に及んだというのが信じられない思いである。容疑 者として逮捕されたのは18歳の主犯格を含む3人の少年たちだ。「少年」ということでこれまでは捜査も報道も慎重であったようだ。彼らの容疑が事実だと判 明した場合、社会は彼ら「少年」をどのように処すればよいだろう。

◆与野党は今国会に選挙権年齢を「18歳以上」に引き下げる公職選挙法改正案を提出する予定だ。成立すれば来年の参院選で18歳から選挙権が得られ る。18歳になると、人を殺める凶器にもなる自動車を運転する免許も取れるし、政治に参加する権利も与えられる。それでもまだ18歳は「少年」なのか。 「成人」とはなんだろう。スマホ・ゲームに興じるサラリーマンを横目に見ながら、日本の社会は幼稚化しているのか成熟しているのか、と惑う。仮に幼稚化し ているとすれば、選挙権年齢の引き下げは、「背伸び」をしていることになる。

◆当初、川崎の事件は「イスラム国」を模倣したものとの指摘もあった。その真偽は定かではないが共通点は確かにある。社会から疎外された若者のやり 場のない憤懣である。何でも「格差問題」にこじつけるような最近の風潮にはいささか食傷気味だが、川崎のこの事件こそ、格差が生んだ現代社会の根深い闇の 一端を覗かせている。差別や貧困が原因の不幸がある。その近隣に甘酒やご馳走で桃の節句を祝う幸せな家庭がある。こどもは親や家庭を選んで生まれてくるこ とはできない。なにか、どこか間違っていると内なる声が聞こえるが、五人囃子に笛太鼓の音にかき消されて、はっきりと聞こえないのがもどかしい。

マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆