◆講談社から「ルパン三世」全178話収録のDVDコレクションが創刊された。「ルパン三世」のテレビ放送が始まったのは70年代初め。45年近く経つのにいまだにDVDがリバイバルされるのは衰えないルパン人気の象徴だ。僕も「ルパン三世」は大好きだが、第1シリーズに限っての話である。「ルパン三世」の第1シリーズは絵もストーリーも音楽もまったく他と別物である。これだけが大人のエンターテイメントであって、第2シリーズ以降は劇場映画も含め、お子様向けのただの「アニメ」でしかない。(「名探偵コナン」と大差ないということだ。)

◆その「ルパン三世」第1シリーズ、忘れがたい傑作は数多くあるが、第22話「先手必勝!コンピューター作戦」もそのひとつ。ルパンの行動を100%予想するコンピューター相手に、さすがのルパンも苦戦するというお話。なにしろ70年代初期の話だから、くるくる回るオープンリールから打ち出される紙テープで結果が出力される時代。いくらFBIの高性能コンピューターでもそんなのでルパンの行動パターンを計算できないのではないか?

◆それから20年経った90年代に、僕がいた運用会社でも当時ワークステーションと呼ばれた高性能コンピューターを使った運用をおこなっていたが、結果が出るまで一晩かかったものだ。今思うとなんとも牧歌的であった。そこからさらに四半世紀、時代が進んで当時とは隔世の感がある。今は1000分の1秒を争う高速取引をコンピューターがおこなう。そのあおりを食って人間の仕事がどんどんコンピューターに奪われている。このテーマは再三、小欄でも取り上げた(例えば第136回「電子投票」)。

◆もちろん僕は、その風潮に反対する「人間代表」。例えば、こんなことを書いた。<世界最先端の高速取引システムを擁するニューヨーク証券取引所はいまだに立会場にフロア・トレーダーを残している。(中略)相場は生き物で感情が渦巻いていることを彼らの表情を通じて知る。株に限らず、「市場」や「取引」というものは効率性がすべてではない>(第138回「首塚」)

◆ところが、である。世界最大の先物取引所CMEグループは、先物の場立ち取引をほぼ全面的に終えると発表した。先物取引の本場、シカゴでも伝統的な場立ちが消える。コンピューター取引にとって代わられるのである。今は人間のほうが劣勢に立たされているが、コンピューターとて万能ではない。いずれ人間が一矢を報いるときがくるだろう。そのためにはコンピューターが絶対に人間に勝てない、ある「能力」を使うことが肝要だ。ルパンもこれでコンピューターに勝利したのだ。それは、人間の「気まぐれ」である。

マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆