パワー半導体の勢い止まらず。特にSiCパワー半導体に注目
電気自動車(EV)の普及で、モーターやバッテリー電源制御などに使われるパワー半導体への関心が高まっている。特により高性能なSiC(炭化ケイ素)という化合物を活用したパワー半導体の需要が中期的にも急増する見通しにある。
パワー半導体は半導体を用いたデバイスの中で、電源などの電力の制御や変換を行うものを指す。省電力で演算や記憶などを行うロジックやメモリーといった半導体や、カメラのイメージセンサーなどに対し、パワー半導体は省電力から大電力までの電力の制御を行うことに特色がある。
半導体は素材にシリコン(Si=珪素)を使っている。より性能を上げるために2つの元素を混ぜた化合物半導体が注目されている。中でも実用化で先行するのがSiCパワー半導体だ。EVに活用すると電費(ガソリン車の燃費に相当)が10%改善されるという。
世界市場調査から見る、パワー半導体の将来性
マーケティング調査などの富士経済は先ごろ、パワー半導体の世界市場の調査結果をまとめている。それによると、2023年のパワー半導体の世界市場は前年比5.2%増の3兆1739億円だった。
シリコンウエハがほぼ横ばいだったのに対し、SiCを含む次世代パワー半導体は、分母は小さいものの62.2%増の3944億円となった。2035年にパワー半導体市場は7兆7757億円(2023年比2.4倍)と予測されるが、次世代の構成比が45%まで高まると試算している。
SiCパワー半導体は同8.1倍の3兆1510億円と急増が見込まれる。富士経済では「電動車の増加に伴い採用が増加。将来的には価格の下落で自動車用以外の採用も広がる」としている。
自動車以外の需要拡大にも大きな期待、SiCパワー半導体に関連する注目銘柄
ここで、主なSiCパワー半導体に関連した注目銘柄をピックアップする。
東洋炭素(5310)
等方性黒鉛のパイオニア。世界シェア3割の首位を誇る。炭素の一種である等方性黒鉛には熱や電気伝導性に優れ、軽量で加工が容易などの特性がある。これを生かして近年では半導体分野、特にSiC半導体など化合物半導体製造用に使われている。一般的なシリコン(Si)半導体は単結晶を引き上げて、それをスライスするとシリコンウエハになる。単結晶基板上にその基板と同じ面方向を持った結晶を成長させる(エピタキシャル成長)。この際に使われるのが等方性黒鉛だ。2023年12月期はSiCコーティング黒鉛製品が、SiCエピタキシャル用途が大幅に増加したとしている。
ディスコ(6146)
半導体製造工程の「切る」「削る」「磨く」装置で世界首位。SiCパワー半導体向けの切断装置を製造している。SiCの硬度はシリコンの1.8倍で、切断が困難だとされる。同社ではシリコンに関してはレーザーで切断していたが、SiC向けとしては弱点もあった。そこで、レーザーで切れ目を入れた後に、板で圧力をかけて細かく切断する装置を開発。これは付加価値が高く、好採算と見られる。
レゾナック・ホールディングス(4004)
旧昭和電工。半導体の後工程材料で世界首位。SiCエピウエハでも世界トップクラスとして知られる。エピウエハ事業は2022年比で5年以内に売上高を5倍にすることを目指す。EVの他、データセンターのサーバー電源などにも採用が増加している。
ローム(6963)
SiCパワー半導体に強みを持つ。ロームは2027年度までに、SiC事業全体で5100億円を投資する計画。SiCパワー半導体の売上高は同年度に2700億円を目指す。同社ではSiCパワー半導体で世界シェア30%を目指し、首位を狙っている。
富士電機(6504)
パワー半導体の国内大手。報道によると、2024~2026年の3年間で半導体分野に2000億円規模を投資する計画がある。国内工場にSiCパワー半導体の生産ラインを新設し、能力を増強する。8インチの大型化したウエハを使った半導体の生産を2027年度以降に始めるという。