◆バタバタしていて書きそびれたが、今週月曜日、1月26日はポール・ニューマンの誕生日だった。存命であれば90歳になっていた。今年はニューマン生誕90周年に当たる。ポール・ニューマンといえば、いくつも名作が思い浮かぶが、あえてひとつを選ぶとすれば『スティング』を挙げたい。

◆1930年代のシカゴを舞台に、仲間の仇を討つために大物ギャングを罠にはめる詐欺師たちの物語。映画を観たことはなくとも、あの軽快な主題歌は耳にした方も多いのではないだろうか。これからご覧になる方のためにネタばれにならないように詳細は伏せるが、よく練られたプロットは映画史上、五指に入るだろう。なにしろ詐欺師が主役の映画だから、大掛かりな仕掛けが見どころだ。騙される快感を味わえること請け合いである。

◆『スティング』みたいな話は映画の中だけのこと...と思っていたら、映画をも凌ぐ大掛かりな詐欺事件が中国で発生した。南京市で、偽物の銀行を用意して2億元(約38億円)をだまし取ったというのだ。国有銀行そっくりの建物やATM、職員の制服などを用意し、公式ウェブサイトまで備えていたそうだ。偽の銀行だから「公式」サイトと言うのも変な話だが。しかし、いくら建物やATMがあっても偽の銀行によくおカネを預けるひとがいたものだ。中国の国有銀行の預金金利は年3%のところ、この偽銀行は週利2%をうたっていたというが、その時点でおかしいと普通は思うはずだ。

◆騙されるのは、人間に欲望があるからだ。おカネを増やしたいという欲望が。それは国家やイデオロギーが違っても万国共通、人間の性である。人間にその欲望がある限り、この世から詐欺と資本主義が消えることはない。『スティング』は詐欺師がカネを騙し取る話でありながら、後味が爽やかで、カネの嫌な匂いがしない。だからこそ、この映画は究極の「ファンタジー」として長くひとびとに愛され続けるのだろう。

マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆