◆昨日に続いて「お客様感謝デー」の話題を。特別ゲストにアテネ五輪の金メダリスト、ハンマー投げの室伏広治さんをお招きした。室伏さんは日本選手権20連覇という偉業を達成し、今も現役のトップアスリートである。室伏さんの話で強く印象に残ったのが、「目標と目的をしっかり区別する」ということである。

◆東日本大震災の後、室伏さんは被災地を訪れた。被災地の子どもたちのためにできることは何かと自問した。それは2012年のロンドン五輪でメダルを獲ることだと自分に誓った。メダル獲得が目標となった。しかし、真の目的は子どもたちを笑顔にすることだ。目標を達成するにはそれを上回る目的が必要である。強い目的意識があったからこそ、メダル獲得という目標が達成できたのだと室伏さんは言う。

◆先週、ECB(欧州中央銀行)は国債購入を中心とするQE(量的緩和策)を決定した。毎月600億ユーロの資産購入を少なくとも2016年9月まで行う。もっともサプライズだったのは、16年9月の時点でインフレ目標(2%弱)が見通せない状態であれば、QEの延長もあり得るという点だ。これは「オープン・エンド」(目標達成まで政策を続ける)型のQEだ。

◆従来は、バランスシートを現在の2兆ユーロ程度から3兆ユーロに引き上げるという残高を目標としていたが、スタンスを明確に変えてきた。バランスシートの拡大は手段であって目標でない。本当の目標はインフレ率である。そしてさらに言えば、その目標の先にもっと大きな目的がある。ユーロ圏をデフレに陥る危機から救い、経済成長の軌道に乗せることである。

◆翻って、我が日本銀行。最近の黒田総裁の発言を聞いていると、手段と目標と目的がごっちゃになっている感が否めない。2%の物価目標達成が「16年度にずれ込むかもしれない」などと言っていないで、日銀の量的質的緩和はそもそも初めからオープン・エンドだと言明すればいい。事実、そうなのだから。経営の神様、松下幸之助氏もオープン・エンドを支持してくれるだろう。
「成功の要諦は、成功するまで続けることにある」(松下幸之助)

マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆