◆今回から毎月1回、マーク・ファーバー博士のレポートを紹介する。ファーバー博士がどういう人物かについては、こちら(※)をご参照いただくとして、米国株セミナーでおなじみの広瀬隆雄さんによれば、「バイサイドのCIOクラスには、マーク・ファーバーの熱心なファンが多い」そうである。確かにファーバーレポートは示唆に富み、僕も毎回多くの気づきを得ている。しかし、ファーバーレポートには問題がないわけではない。読み手を選ぶのだ。それは内容もさることながらファーバーの文章が難解かつ冗長で、兎角、簡易平明なものが好まれる当節には向かない類のものだからである。

◆ファーバーレポートは毎回、箴言のような言葉の引用から始まる。ひとつ、ふたつではない。今号は6つの引用がなされた。それで1ページを費やす。その次にサイモン・ハントというひと(銅のアナリスト)が書いた「NATOとロシアの脅威」という記事が掲載されている。それが5ページ。その後、歴史学者、戦略地政学者、米国のネオコン系政治家、外交政策コンサルタント、中国出身の弁護士らによる地政学的見解が延々と続く。これで15ページだ。そのあたりになるとようやくファーバーの主張らしきものが出てくる。財政ファイナンスに走る政府と中央銀行批判である。

◆18ページからようやく投資方針が述べられる。債券市場は壮大なバブルであり、よっていつか(ただし、すぐにではなく、いつか)インフレになるというのがファーバーの基本スタンスである。壮大なバブルということなら米国株も明らかに壮大なバブルだとファーバーはいう。米国株との比較ではアジア株式市場が割安であるとして、香港、シンガポールのREIT、タイの銀行、通信、食品などの企業に投資していると述べている。

◆際限なき紙幣増刷に嫌悪感を示すファーバーは、だからこそコモデティ関連の投資を推奨する。特にフリーポート・マクナラン(FCX)がお気に入りだという。同社は貴金属、銅、そして石油・ガスを扱う極めて投機的な銘柄で、株価は当初よりすでに2倍になったが、さらに上昇余地があると思うと述べている。

◆23ページに及ぶレポートの結びは相当、暗い。ファーバーは「どうしてこんなことになってしまったのか?」と嘆く。民主主義の崩壊、腐敗の泥沼、権力の乱用、法律の恣意的適用、機能不全の官僚主義、無責任な学者による不健全な金融政策などについてである。要は、いまの政治経済の現状すべてが気に入らないらしい。

◆ファーバーレポートの邦訳タイトルは「マーク・ファーバー博士の月刊マーケットレポート」だが英語の原題は、「グルーム・ブーム・ドゥーム」。この韻を踏んだ原題の妙を、韻を踏みながら日本語に訳すのは至難の業なので逐語訳で恐縮だが、「停滞・にわか景気(ブーム)・破滅」という意味だ。はじめに述べた通り、ファーバーレポートは万人受けするような代物では決してない。但し、難解で長いレポートを読んだ挙句、陰鬱な気分になりたいひとにはうってつけだ。気が滅入ること請け合いである。

 

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マーク・ファーバー博士の月刊マーケットレポート