◆国立がん研究センターが先日発表した最新の推計値によると、がん患者の5年後の生存率は62.1%。3年前の前回調査より3.5ポイント上昇したが、その理由は、「前立腺がんや乳がんなど治りやすいがんの患者が増えたこと」だという。がんの治療法が進歩して生存率が上がったのなら素晴らしいが、そういうわけではないらしい。統計上のマジックのようなものか。
◆日本人にもっとも多いのは胃がんである。そして胃がんの発症に大きな関係があると言われるのがピロリ菌だ。私事で恐縮だが数年前にピロリ菌が陽性で、二次除菌まで試みたが除菌できなかった。保険が適用になるのは二次除菌までなのでしばらく放っておいたが、やはりこの際、除菌するべきと思い立ってピロリ菌の専門医を訪れたところ、「既に除菌できてます」。前回の検査結果が微妙な値であったため、除菌不成功と判定されたが、今回改めて検査するとちゃんと除菌されていたという。こちらはデータの読み間違いである。
◆ビッグデータの時代と言われ、近年は特にデータや統計に対する注目が高まっているが、その一方でデータや統計を扱う難しさも指摘されている。例えば、家計の消費動向を示す統計は、総務省のもの、経済産業省のもの、日銀のものと強弱まちまちである。サンプルの偏りなどがその要因だが、そもそも急速に発達するインターネット経済や「シェアエコノミー」を統計に取り込むのは現時点では非常に困難。自ずと限界がある。統計は重要だが、過信するのもよくない。「嘘には3種類ある。普通の嘘と大きな嘘と、統計である」という箴言もあるくらいだ。
◆総務省の消費者物価指数(CPI)には変動が大きい生鮮食品を除いた「コア指数」とエネルギーも除いた「コアコア指数」などがあるが、コアコア指数は酒類を除く食料も取り除かれる。「物価の基調が着実に改善している」とする日銀にとっては、値下がりが顕著なエネルギーは除きたいが、一部で値上げの動きが出ている食料品は取り込みたい。そこで日銀は生鮮食品とエネルギーを除いた日銀版コアコアCPIを独自に算出している。いわば都合のよい統計を勝手に持ち出してきたわけだ。
◆しかし、その日銀版コアコアCPIも直近では+0.8%と2カ月連続の鈍化で1%割れの水準。総務省のコアCPIは3カ月連続でマイナス幅が拡大している。もう物価の基調を読み間違うのは許されない。今週末の金融政策決定会合ではなんらかのアクションが求められる。「ヘリコプター・マネー」政策までまことしやかに語られる昨今、ゼロ回答では市場は納得しないだろう。
◆二次除菌の判定結果がデータの読み間違いだったと聞かされたときは立腹したが、すぐに「よくあることだ」と思い直した。自分だって読み間違いをよくするのだ。ピロリ菌検査の判定用紙に書かれた「ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌の正式名称)」という文字を見て、「ヘリコプター」と読んでしまった。これは職業病である。