全国実態調査と実際のケース、介護費用を比較してみる

公益財団法人生命保険文化センターが2021年に行った「生命保険に関する全国実態調査」によると、1ヶ月あたりの介護費用の平均額、介護を行った場所別の平均額、介護の平均期間は次の通りでした。

・介護費用 平均82,700円

(場所別)
・在宅介護 平均 48,000円
・施設介護 平均121,600円

(平均期間)
・5年1ヶ月

また住宅改修や介護ベッドなど、一時的にかかった介護費用の平均額は744,000円でした。今回は、この調査結果とわが家の介護費用とを比較してみます。

介護費用を抑えるために介護保険サービスの利用は必須

東京に住んでいる私は、岩手で暮らす認知症の母を介護するために、公的な介護保険サービスを利用しています。例えば家の掃除や洗濯を行う訪問介護や、施設に通ってお風呂や食事、レクリエーションを受けるデイサービス、筋力維持を目的とした訪問リハビリ、薬の管理を行う薬剤師訪問サービスなどです。

これらの介護保険サービスを利用するためには、要介護認定を受ける必要があります。市区町村から派遣された調査員が、サービスを利用する家族の健康状態を確認し、かかりつけ医による主治医意見書と合わせて、要介護度が決定されます。

要介護度は要介護1~5、要支援1~2の7段階で、要介護度が重いほど介護保険サービスを多く利用できます。要介護度に応じて支給限度額が決められていて、限度額内であれば、自己負担割合は1割から3割になります。例えば最も重い要介護5の場合、1ヶ月あたりの支給限度額は362,170円で、1割負担なら36,217円の支払いとなります。

支給限度額を超えてサービスを利用すると10割負担となるため、家族が介護に参加するなどしてサービスの利用を減らすことで、介護費用を抑えられます。

冒頭で紹介した全国実態調査に参加した介護者の9割以上が、公的な介護保険サービスを利用していると回答しています。介護保険サービスの存在を知らなかったがために、マンションを売って介護費用を工面した介護者もいると聞いたことがあります。介護費用を抑えるためには、公的な介護保険サービスの利用は必須と言えるでしょう。

介護費用のうち大きな出費となるのが新幹線代含めた交通費

私の母は要介護4で、身体障害者手帳2級を持っています。医療費や薬代は、重度心身障害者医療助成制度によって全額助成されているため、介護費用には含まれていません。

わが家の1ヶ月あたりの介護費用の内訳は、次の通りです。

・交通費(東北新幹線2往復、通院時のタクシー利用):48,000円
・★訪問介護(週6回)9,000円
・★訪問リハビリ(週1回):3,500円
・★デイサービス(週4回):32,000円
・★薬剤師訪問サービス(週1回):2,000円
・★手すりレンタル(5台):2,000円
合計 96,500円(★は介護保険サービス)

介護費用の約半分を交通費が占めています。東北新幹線を利用して帰省していますが、交通費節約のため、JR東日本が運営している予約サイト「えきねっと」を利用しています。

えきねっとでチケットを購入して25%割引などを適用すれば、1ヶ月で16,000円の節約になります。以前は高速バスを利用して交通費を節約していましたが、8時間のバス移動で自分自身の体力を消耗してしまったので新幹線利用に切り替えました。

訪問介護は週6回利用しています。認知症の母はデイサービスへ行く荷物の準備をはじめ、スーパーへ買い物に行くことや食事の準備もできないため、すべてホームヘルパーの方にお願いしています。

デイサービスは週4回利用しています。食事や入浴など日常生活の支援のほか、他の利用者との交流など、1日6時間ほど施設に滞在し、母の様子を見守ってくれます。

訪問リハビリは週1回、作業療法士が家に来ます。母の歩行を維持するための機能訓練を行ったり、料理を通じて認知症のリハビリも行ったりしています。

介護期間は平均値では語れない…、介護資金には余裕が必要

わが家の介護費用は、実態調査の平均額83,000円よりも14,000円ほど高くなりました。しかし介護費用の約半分が交通費なので、交通費を除くと在宅介護の平均額48,000円とほぼ同じ金額になりました。

また一時的にかかった介護費用は0円でした。住宅改修の必要がなかったのと、手すりや介護ベッドは購入ではなく、すべて介護保険でレンタルしているためです。

もし母を最初から介護施設に預けた場合、実態調査に基づいて介護費用を計算すると、122,000円×12ヶ月×11年=約1,610万円になります。これだけの費用がかかったとしたら、わが家の介護資金は底をついていたと思います。まさか介護の平均期間の倍以上、介護が続くとは思ってもいませんでした。

皆さんのご家族は自分自身の介護費用を用意しているでしょうか?親子で介護費用について確認し合ったことはありますか?

在宅で介護するのか、施設で介護するのかを考える前に、親が介護費用を用意しているのか?用意している場合は、どのくらい介護資金を準備しているかを把握するところから始めてください。わが家のように、11年も介護が続く可能性もあります。終わりの見えない介護を続けていくために、介護資金は余裕を持たせておきましょう。