2023年の中間決算で好調が目立つ食品業界
今回は食品業界について解説したいと思います。11月も後半に入りました。2023年という年も大詰めを迎えます。
冬の入り口、この季節は例年のように運用機関のファンドマネージャーにとって安閑としてはいられない、かなり多忙な時期になります。それは2月期、3月期決算の企業を中心に上半期の決算が出揃うためです。ファンドに組み入れている構成銘柄の見直しを行う必要が生じるのです。
2023年の中間決算では、3月決算企業の業績内容はすこぶる好調でした。データを集計した日本経済新聞によれば、2024年3月期の上場企業の上半期は純利益が前年比+13%も増加し、3年連続して史上最高益を更新することとなりました。
挽回生産、挽回消費の自動車、小売セクターが好調なのはもちろん、意外なところでは食品業界の好調さが目立ちます。日本経済新聞の集計結果をセクター別に見ると、食品業界(42社)は2024年3月期の上半期、売上高の合計が745億円(前年比+5.9%)となり、経常利益も54.4億円(+24.6%)と好成績を残しています。
これは製造業(510社)の合計の売上高(1兆8948億円+6.6%)、および経常利益(1611億円+4.7%)と比較するとよくわかりますが、利益面の伸び率が全体の成績を上回っています。
好調な業績を生み出している6つのポイント
食品業界もそうですが、製造業やサービス産業全般を貫いている好調な業績の背景は、以下の6点に集約されます。
1.コロナ禍を抜け出した経済活動が人流として急回復していること
2.抑えられていた国内の消費マインドが旅行ブームとなって発露されていること
3.外国人がデフレの長期化で海外と比較すると物価が抑えられた日本に殺到していること(中国を除く)
4.円安の進行により日本の資産価値が相対的に割安になっていること
5.インフレによる原料価格の上昇を販売価格に転嫁しやすくなっていること
6.インフレによる物価上昇を賃上げに繋げる動きが出てきたこと
中でも食品業界は、上記要因の大半でプラス面の影響が強く作用しています。特に、1の経済活動の回復が人々の外出機会の増加に繋がっており、業務用食材に著しい需要の回復が見られます。
その分、コロナ禍でイレギュラーに盛り上がった家庭内での「おうち消費」は特需が急速に萎んでいますが、それでも外出先での飲食需要の高まりに置き換わっているだけです。飲食店やスーパー、コンビニなど販売サイドも、デフレ下ではあれほど恐れていた値上げを、今やさほど怖がらなくなっています。
社会の隅々にデフレマインドが浸透していると言われて久しい日本の経済は、2022年春先から頻繁に物価の引き上げ、「値上げ」が行われるようになりました。
私たちはバブル崩壊後の30年間、久しく経験してこなかった「値上げ」という状況にさらされています。しかし、そのような状況に突然投げ込まれても身体が馴染んでおらず、年配の人々ですら久しぶりの物価上昇を味わっているところです。
今や次から次へと玉突き現象で値上げが転嫁されてゆく様が見られており、社会全体が少しでもインフレを吸収しようとする方向に向かっています。後は、この先もそれに見合った賃上げが行われるかどうか、というところまでこぎつけました。
そのような状況に際して食品業界は、消費者と直結するビジネスモデルを展開しています。それだけに、一方的に値上げを行いやすい産業と捉えることができます。
食品業界は3~4年前から「ステルス値上げ」と呼ばれる、同じ価格で容量を少なくする実質的な値上げを行っており、消費者に拒絶反応を起こさせないように静かに値上げを実施してきました。
それが社会に浸透して、もはやこれ以上の数量減は難しいというところに到達したところで、現在は恐る恐ると値札を改定するところに来ました。それがこの1~2年の動きだったように思います。そうして食品業界の現在の好業績がもたらされているように見られます。
食品大手3社の決算事例
ここで、具体的な食品業界の決算事例を見てみましょう。
世界最大のしょうゆメーカーであるキッコーマン(2801)は、11月2日に2024年3月期・第2四半期の決算を発表しました。売上高は3227億円(前年比+5.7%)、営業利益は334億円(+10.4%)となりました。
中核であるしょうゆは業務用が外食店を中心に需要が回復し、家庭用も「いつでも新鮮」シリーズのテレビCMを継続的に打ちましたが、数量ベースでおうち消費の反動により前年を下回りました。
そこで家庭用で2023年4月、業務用で2023年8月に、めんつゆ、ぽんずでも相次いで価格改定を行い、それが奏功して売上高は全体で前年実績を上回ることができました。
続いて「カップヌードル」でおなじみの日清食品ホールディングス(2897)です。11月9日に第2四半期の決算を発表しました。売上高は3503億円(+10.5%)、営業利益は449億円(+66.1%)という大幅な伸びを記録しています。
前年の巣ごもり消費による特需をものともせず、「カップヌードル 担担」などのカップ麺、「チキンラーメン」などの袋麺、「日清カレーメシ」などのカップライスという分野で次々と新製品のヒットを飛ばしています。それが売上の好調に繋がり、まさに絶好調というところです。
新製品でヒットが出ると、それが既存の商品と似ていても付加価値を高めたことに繋がり、結果として価格改定を行いやすくなります。コロナ禍の3年間、特に後半は多くのメーカーが相次いで新製品を世に送り出した時期でもあります(新製品ラッシュは現在も続いています)。
日清食品ホールディングスはカップ麺以外でも、この夏の猛暑もあって低温チルドの「冷し中華」が好調でした。焼きそば、パスタも新商品が大きく伸びており、そこに価格引き上げ効果が加わっています。原料コストの上昇を吸収する地道な努力が、「カップラーメンの日清食品」という老舗企業の実績として着実に積み上げられており、その結果が決算数字に表れています。
日清オイリオグループ(2602)のケースも同様です。精油業界のトップ企業としてサラダ油など家庭用オイルのパイオニア的存在です。近年はオリーブオイル、アマニ油、ごま油など、健康に良いオイルに力を入れています。
11月8日に発表した2024年3月期・第2四半期の決算は、売上高が2548億円(▲7.5%)と減少したものの、営業利益は115.4億円(+22.4%)と大きく伸びました。前期に続いて今期も史上最高益を更新する見通しです。
ウクライナ紛争の影響で前年は原料の大豆、菜種の市況が記録的な高値となりましたが、それも徐々に鎮静化しています。その分のコスト負担については、業務用オイルを中心に原料価格の転嫁を進めており、今期はそれが軌道に乗りつつあります。
家庭用オイルは、消費者の生活防衛意識の高まりで市場全体が厳しい状況にありますが、「かけるオイル」という新しい食事のスタイルが定着しつつあって、価格改定を後押ししています。それが決算数字に表れています。
このように食品大手3社の決算内容を見ても、決して簡単に業績を伸ばしているわけではありません。いくら原料価格の値上がりが厳しいとはいえ、消費者は簡単には値上げを受け入れてくれるわけではありません。
どの企業も手探りで苦心しながら、コロナ禍明けと物価上昇の局面に対処しています。そうして新製品を送り出し、業績を拡大させて新たな成長軌道を見出しています。
価格改定だけの単純な値上げは難しく、どこかに必ず商品の機能を高めるような付加価値を加えて、その上で少しずつ値上げを浸透させています。その努力が今期の好業績に繋がっていると考えられます。
他にも好業績を果たした注目の食品関連銘柄
上記の食品メーカーの他にも、以下の企業が好業績を果たした食品企業として注目されます。
森永乳業(2264)
ヨーグルトの「ビヒダス」、アイスクリームの「ピノ」、コーヒー飲料の「マウント・レーニア」、「森永の焼きプリン」などのナショナルブランドで知られる食品業界大手。2017年には創業100年を迎えた。森永製菓(2201)とは兄弟会社の関係にある。
味の素(2802)
食品業界のトップ企業。調味料「味の素」からスタートして「ほんだし」、「コンソメ」、「マヨネーズ」から「クノール・カップス-プ」、コーヒー、人工甘味料「パルスイート」など、アミノ酸から加工食品、バイオ、動物用飼料など、数々の事業を有する食のコングロマリット。M&Aを積極活用して事業を拡大している。
山崎製パン(2212)
製パン業界断トツのトップ企業。高い市場シェアを武器に、今回のインフレ局面では真っ先に値上げを表明し、その後の価格改定の流れをリードした。傘下には不二家、東ハト、旧ヤマザキ・ナビスコの「ヤマザキビスケット」を有する。豊富なキャッシュフローを活かして事業規模を次々と拡大中。
参考文献:『コロナ禍の食と農』(2022年、筑波書房)