新たな半導体技術で注目を集める「チップレット」とは
半導体の微細化が進展している。オランダの半導体露光装置メーカーであるASMLがEUV(極端紫外線)露光装置を開発し、10ナノ(ナノは10億分の1)メートル未満の線幅の露光を可能にした。半導体の性能は線幅が細くなるほど向上する。
半導体チップは素子や回路の配線幅を微細化することで、高性能化や多機能化、低コスト化を進めてきたのである。最先端は2ナノが開発中で、2025年にも実用化されると見られている。
ところが、この微細加工技術が進展する一方で、製造時の歩留まりに影響が見られるようになってきた。膨大な数の微細な素子をチップ上に均一に作り上げ、かつ高い歩留まりで作ることが徐々に困難になりつつある。超微細化の進展で、個々の素子構造のわずかなブレが、チップの特性変動に繋がりやすくなってきたことが要因だ。
このような中、「チップレット」と呼ばれる後工程技術が注目されている。半導体の製造工程には、シリコンウエハの上に回路の部分を作る前工程と、ウエハを切ってパッケージ基板を取り付ける後工程に分かれる。
チップレットとは、これまで1つのチップに集積した大規模な回路を複数の小さなチップに個片化(これをチップレットと言う)し、チップレット間を繋ぐ基板上に乗せワンパッケージ化するもの。
個別のウエハで作ったチップレットの中から良品を選別し、インターポーザ(中継部品)などの上に実装し相互接続することで、結果として大規模チップにする。また、ワンチップ化できそうな大規模チップでも、あえて複数のチップレットに分割して製造することで、歩留まりの改善を狙う仕組みだ。
要約すると、ワンチップ化した大面積チップでは、製造条件のばらつき、不良の原因となる不純物、浮遊物などの混入確率が上がる。これをチップレット化することで歩留まりが良くなるということになる。大手調査機関によると、量産初期の歩留まりがワンチップ化では4%であるのに対し、チップレット化することで21%に向上すると試算している。
東京工業大学の栗田洋一郎特任教授との共同研究による研究チームが2022年10月、PSBと呼ぶ技術を用いたチップレット集積技術を開発したと発表した。
発表資料によれば、今後の大規模なチップレット集積に求められる、広帯域のチップ間接続性能、チップレット集積規模の拡大といった要求を、最小限の構成と製造プロセスで実現するものとしている。
同大学などでは研究および応用した装置の高性能化を目的に「チップレット集積プラットフォーム・コンソーシアム」を設立した(※)。上場企業の主なコンソーシアムメンバーはアルバック(6728)、住友ベークライト(4203)、太陽ホールディングス(4626)、マクセル(6810)、リンテック(7966)となっている。
半導体の新潮流を牽引するチップレット関連銘柄
ここから、今後の動向が気になるチップレット関連銘柄を紹介する。
アオイ電子(6832)
半導体集積回路の組立て・検査受託が主力。2022年10月に東京工業大学の栗田特任教授などと、PSBと呼ぶ技術を用いたチップレット集積技術を開発したと発表している。
従来手法では大規模な集積にはウエハサイズや製造技術による制限が指摘されていたが、PSB技術を使うとチップ接続間密度などの向上で性能が改善する他、シンプルな構造で集積規模が拡大できるとしている。
TOWA(6315)
封止や切断加工など半導体後工程用製造装置の大手。2023年9月26日付の日本経済新聞でデータセンターなどの効率的な運用を目指して、半導体を1つにまとめる装置を開発したと報じられている。
チップレット技術に対応し、半導体受託生産で世界最大手の台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング(TSMC)[TSM]に出荷する模様。1台の装置が最大6枚のチップレットを同時に封止する。チップレット専用の封止装置は珍しい。
ソシオネクスト(6526)
2023年10月18日に半導体受託生産最大手のTSMCの2nmプロセステクノロジーを用いた32コアCPU(中央演算処理装置)チップレットの開発において、半導体設計の英アーム社およびTSMCと協業すると発表した。コアは数が多いほど同時並行に行える処理作業の数が増えることを意味する。32コアは最先端であり、大規模データセンター用サーバーなど向けが見込まれる。
このチップレットが実用化されると、高いコスト効率を維持しながらパッケージレベルでの性能向上を継続することができるとしている。2025年上期のサンプル提供を目指す。
新光電気工業(6967)
半導体パッケージの大手。2022年5月に長野県・千曲市に高性能半導体向けフリップチップタイプパッケージの新工場を建設すると発表している。
フリップチップタイプは複数の半導体を実装して、パッケージ全体の性能を高めることができる。複数の半導体を組み合わせて実装する「チップレット」にも利用できると見られている。2024年下期から順次稼働する予定としている。
イビデン(4062)
有機パッケージの世界トップメーカー。大型基板を用いて、高い密度で配線を形成する技術に強みがある。有機パッケージはプロセッサとマザーボードを接続する役割を果たす。プロセッサは、それぞれ得意とする計算方法が異なるため、異なるプロセッサを組み合わせることで効率的な計算ができる。アナリストは同社の技術がチップレットに活用され、次世代の計算処理装置に活用されると見ている。
SCREENホールディングス(7735)
ウエハ洗浄装置で世界首位。チップレット技術が普及すれば、チップ同士を張り合わせる時に、それぞれのチップを洗浄するという工程が生まれる。これまでとは違う洗浄ニーズの発生は追い風になるとしている。
(※)最小要素のチップレット集積技術を開発 広帯域接続と集積規模のスケーラビリティを実現 | 東工大ニュース | 東京工業大学
https://www.titech.ac.jp/news/2022/064932