トヨタ自動車を始め、大手自動車メーカーも大幅な業績回復へ

自動車メーカーの業績が復調しつつあります。今回は自動車セクター関連の中でも、主にサスペンションを軸に自動車部品株について解説します。

まず、自動車メーカー各社の動向ですが、いずれも業績が急回復しています。
8月1日に発表されたトヨタ自動車(7203)の2023年4―6月期の決算は、売上高が10兆5468億円(前年同期比+24%)、純利益が1兆3113億円(同+78%)と大きく伸びました。

特に営業利益は1兆1209億円(同+94%)に達し、日本の上場企業では初めて四半期ベースで1兆円の大台を突破しました。ここ数年、新型コロナウイルスの感染拡大で世界的に物流網が混乱し、自動車生産に不可欠の半導体が調達できなくなっていました。それが生産の足を引っ張っていましたが、ようやく正常な状態に戻りつつあります。

好業績の要因はそれだけではありません。過度な販売競争が抑えられて車両価格の改定が進んだことで、適正な利益が得られるようになったことも大きいです。為替レートが円安に振れたこともプラスに作用しています。

トヨタ自動車ばかりでなく、日産自動車(7201)も4―6月期の売上高は2兆9176億円(同+37%)、純利益が1054億円(同2.2倍)と極めて好調でした。

同じように本田技研工業(7267)も売上高は4兆6249億円(同+21%)、純利益が3630億円(同2.4倍)と大幅な伸びを記録しています。いずれも生産が回復したことに加えて、コロナ禍で苦しんだ3年間に実施した固定費の削減がここに来て功を奏しています。

大手自動車メーカーの業績が急回復するに伴って、これらのメーカーに部品を供給している自動車部品メーカーの業績も久しぶりに明るくなっています。

EV化により「存続する部品」を製造する自動車部品メーカーに注目集まる

現在、世界の自動車メーカーは、ガソリンを燃やして走る内燃車から、電気自動車(EV)に代表される温暖化ガスの排出量が少ないエコカーへと切り替えを急いでいます。日本をはじめG7各国は、2023年に開かれた広島サミットに合わせて、2035年までに自動車から排出される温暖化ガスを2000年比で半減するとの規制案を打ち出しました。

それに伴って自動車部品の中には、技術的にまったく不要になる部品も出てくるとされています。現在は「クルマ1台あたり3万点の部品が必要」と言われていますが、EVなどのエコカーは現在のガソリン車よりも部品点数が大幅に減ると見られます。

組立て産業の頂点に君臨する自動車産業。その中でも技術の粋とされるエンジンやトランスミッションがまったく不要になる日が来るなどとは思ってもみませんでした。まさに現在の自動車および自動車部品業界は「100年に1度の技術革新」に直面しています。

とはいえ、現在用いられている部品のすべてがなくなるわけではありません。エコカーへの移行の過程で、残る部品とそうでない部品が次第に選別されてくることになります。

「存続する部品」の1つがサスペンションです。緩衝装置、または懸架装置とも呼ばれます。ガソリン車でもエコカーでも、動力の次に重要なパーツはサスペンションであると言っても過言ではないでしょう。

自動車を走らせる技術の3要素は「走る」「曲がる」「止まる」とされます。その中で主に「曲がる」の部分を担っているのがサスペンションです。その上、サスペンションは「走る」「止まる」の分野にも関わっています。

自動車は、自ら走るための動力(エンジンやモーター)を持っています。しかし、いくら優れた動力を持っていても、それだけで走ることはできません。動力源となるエンジンやモーターで起こしたパワーを駆動輪(タイヤ)に伝える必要があります。

動力をタイヤに伝える部分は「駆動系」と呼ばれます。駆動系=ドライブトレーン(トランスミッション、プロペラシャフト、デファレンシャル、ドライブシャフトなど)で、動力のパワーを路面に伝えるシステムです。

ただし、自動車を動かすには「駆動系」だけでは十分ではありません。道路はまっすぐで平らなものばかりとは限りません。実際にはデコボコがあり、交差点には曲がり角があり、高速道路でも緩いカーブが続くことがあります。山道ではきついカーブが延々と続きます。

路面の状況も千差万別です。きれいに舗装された道路もあれば、荒れた道もあります。どんな路面でも一定以上の乗り心地とコーナリングの性能が必要です。

路面と接しているのはタイヤです。エンジンとタイヤの間にサスペンションが入ることで、動力をかけた時にしっかりとタイヤを路面に押しつけて、駆動力を路面に伝えることができるのです。そのためにサスペンションが不可欠なのです。

さらにサスペンションには緩衝機構としての役割もあります。クルマで人や物を運ぶ場合、道路のデコボコの振動がタイヤを通してそのまま車内に伝わってきたら、人間はとてもではありませんがクルマに乗っていられません。積み荷に対しても振動による悪影響が出てきます。

クルマの乗り心地とも関係しますが、サスペンションにはクルマの運転時に発生する不快なノイズ(騒音)、路面から伝わるバイブレーション(振動)、不整地や道路の継ぎ目から生じるハーシュネス(衝撃)をやわらかく受け止めて収束する役割も備わっています。

サスペンションを構成するメインパーツは、スプリングとショックアブソーバーです。中でもスプリングは、機構としてサスペンション全体を見た場合、最も重要な部品となります。

スプリングによって乗り心地のよさを確保するですが、スプリングには固有の振動数があるので、いったん縮むと次は伸びて、また縮んで、また伸びてと伸縮運動を繰り返すことになります。

スプリングが固いと乗り心地が犠牲にされてしまいます。かといってやわらかいスプリングにすると、大きな衝撃があった時でもボディには伝わりにくくなって乗り心地はよくなりますが、やわらかい分だけスプリングの伸縮運動がなかなか収まらず、コーナリングでは横方向の傾き(ローリング)が大きくなり、加速・減速時は前後の傾き(ピッチング)が大きくなって、運転の安定性が取れなくなってしまいます。

いつまでたってもクルマが上下左右に揺さぶられることになってしまいます。それを抑えるためにショックアブソーバーが必要となります。

ショックアブソーバー、すなわち「減衰力」はスプリングが縮んだ後は伸びにくく、伸びた後は縮みにくくする「抵抗」を与える作用があります。ショックアブソーバーによってスプリングの強さに見合った適度な減衰力を発生させ、スプリングの伸縮運動を抑えて安定した走行ができるようになるのです。

サスペンションは、ガソリン車でもEVでも、自動車の走行には必要不可欠な部品となるものです。そこで、今回は数ある自動車部品の中でもサスペンションに関連する企業をご紹介します。

サスペンションを製造する注目の自動車部品関連銘柄

フタバ産業(7241)

自動車の車体をプレスで製造する大手メーカー。トヨタ自動車が筆頭株主。自動車用マフラーで知られているが、その他にサスペンションをはじめとするボディ部品にも強みを持つ。売上げの7割がトヨタ自動車向け。プレス加工、レーザー加工などの加工技術とともに、材料評価技術にも定評がある。ガソリン車の排気系部品に代わるエコカー向け製品の開発を急ぐ。

【図表1】週足チャート
出所:マネックス証券ウェブサイト(2023年8月15日時点)

武蔵精密工業(7220)

シャフトやギアを扱う自動車部品メーカー。エンジンの回転数を走行に適した回転数に変換するトランスミッションギヤ、エンジンの吸排気バルブの開閉タイミングを制御するカムシャフトなどを製造する。二輪車用では世界首位。本田技研工業向けが売上げの5割を占める。ボールジョイントはタイヤと車体を繋ぐサスペンションに使用され、路面のデコボコによってタイヤが動く際の関節の役目を担う。EV向けのリチウムイオンキャパシタ、バックアップ電源なども製造する。

【図表2】週足チャート
出所:マネックス証券ウェブサイト(2023年8月15日時点)

日本発條(5991)

サスペンション用ばねでは世界トップ企業。乗用車やトラックのサスペンションに使用する懸架ばねの他に、ばね中央部から両端に向けて板厚を変化させたテーパーリーフスプリング、コーナリングの際にクルマの傾きを抑えるスタビライザ、接着インシュレータなど、サスペンション関連製品を幅広く製造する。また、ばね類ではこの他にも、高速で開閉するエンジンバルブを支えるバルブスプリング、マニュアル車・オートマチック車のトランスミッション用皿ばねなども手がける。独立系だがトヨタ自動車(7203)、日産自動車(7201)、SUBARU(7270)との取引が多い。

【図表3】週足チャート
出所:マネックス証券ウェブサイト(2023年8月15日時点)

住友理工(5191)

自動車用防振ゴムの大手メーカー。住友電工系。路面やエンジンから受ける振動を抑制し、制御する防振ゴムでは世界トップシェアを誇る。特にサスペンションブッシュやメンバーマウント、エンジンマウントは、同社の有する高分子材料技術から生み出された耐熱ゴムによって、従来比2倍の耐久性を持つゴム材料を開発、製品の小型化を実現した。高い信頼性から自動車用にとどまらず、建設機械、高速道路、鉄道車両、橋梁などのインフラ用制振ゴムとしても用いられる。最高益を更新中。

【図表4】週足チャート
出所:マネックス証券ウェブサイト(2023年8月15日時点)

参考文献
『自動車サスペンションの基礎知識』(2018年、日刊工業新聞社)
『自動車の走行性能と構造』(2021年、グランプリ出版)