円安阻止介入の条件を確認する

足元で米ドル/円が145円程度まで上昇すると、過去5年の平均値である5年MA(移動平均線)を23%程度上回る計算になる。このように5年MAを2割以上で上回ったことは1990年以降では3回、逆に5年MAを2割以上下回ったことは2回あったが、この計5回のうち4回で為替介入が行われていた(図表1参照)。以上から考えると、5年MAを米ドル/円が2割以上上回った最近の状況は、いつ為替介入が行われてもおかしくないと言えそうだ。

【図表1】米ドル/円の5年MAかい離率(1990年~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

なお、5年MAからのかい離率が±2割以上に拡大した上述の5回のケースで唯一為替介入が行われなかったのは、いわゆるアベノミクス円安と呼ばれた2015年にかけて125円まで米ドル/円が上昇した局面だった。アベノミクスとは、日銀による大胆な金融緩和を受けた大幅な円安を実質的に容認することで日本経済のデフレからの脱却を目指す政策だったので、大幅な円安に対しても為替介入を見送ったと考えられる。

アベノミクス円安との差異

では、今回はどうか。為替政策を主管する財務省の鈴木財務大臣は6月30日、「足元で政策課題になっているのは物価高騰対策であり、そうした政策課題からすると今の状況(円安)は良くない」との見解を示していた。これを参考にすると、今回はアベノミクス局面とは異なり、行き過ぎた円安、具体的には過去5年の平均値を2割以上米ドル/円が上回る動きは容認しない、つまり状況次第では為替介入を行う可能性が高いのではないか。

ただし、為替市場への介入と言う政策は、21世紀に入ってからは日本以外の先進国では例外的な政策となってきた。例えば米国の場合、1990年代までは日本との協調介入などもそれほど珍しくなく行われてきたが、2000年以降は、2000年9月のユーロ防衛のG7協調介入や2001年9月11日、「同時多発テロ」を受けた米ドル急落に対する協調介入など特殊なケース以外では介入は行っていない。

これは、2022年に日本の通貨当局が2011年以来約10年ぶりに為替介入を行ったことでも証明されたように日本が為替介入できないという意味ではないだろう。ただし、国際的には「特殊な政策」のようになっている為替介入は、日本の通貨当局も本音としては余程必要なケースと判断した時に限り行うという考え方になっている可能性はある。

米ドルではない、クロス円介入の可能性

これまで見てきたように、5年MAかい離率で見ると、最近にかけての米ドル高・円安は介入を行う条件を基本的に満たしている可能性が高そうだ。加えて今回の円安が、7月末の日銀の政策修正後、円金利が全般的には上昇傾向となる中で再燃するといった具合に金利との関係で必ずしも整合的ではない点も「投機的」と受け止めているのではないか。

さらに、米ドル/円がなお2022年の米ドル高値(円安値)を下回る中で、ユーロ/円など一部のクロス円は円の安値を大きく更新するなど、最近にかけての円安がクロス円主導になっている点も通貨当局としては印象的に見ている可能性がある。とくにユーロ/円などは金利差からも大きくかい離した動きとなっている(図表2参照)。

【図表2】ユーロ/円と日独2年債利回り差(2023年1月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

日本の為替介入は基本的には米ドル/円が圧倒的な割合を示してきたが、2003年にかけては米ドル/円の介入を補完する形でユーロ/円でも介入が行われてきた実績があり、それを通じて得たユーロ資金を活用してクロス円相場の円安阻止へ出動することも検討している可能性はあるだろう。